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山路きて何やらゆかし菫草
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山路きて何やらゆかし菫草 芭蕉
湖春曰、菫ハ山によまず。芭蕉翁俳諧に巧なりと云へども、歌學なきの過也*。去來曰、山路に菫をよミたる證哥多し。湖春ハ地下の歌道者也*。いかでかくハ難じられけん、おぼつかなし。
- 湖春曰、菫ハ山によまず。芭蕉翁俳諧に巧なりと云へども、歌學なきの過也
:湖春はこの句をみて、「すみれは山と一緒に詠まない規則なのに、芭蕉は俳諧は上手だとはいっても、やっぱり伝統的な歌学にくらいのでこういう過ちをするのです」と言った。
- 去來曰、山路に菫をよミたる證哥多し。湖春ハ地下の歌道者也:<きょらいいわく、やまじにすみれをよみたるしょうかおおし。こしゅんはじげのかどうしゃなり>。証歌とは、語句・用語法などの証拠となる歌。根拠として引用する歌(『大辞林』)。スミレを山と一緒に詠んだ証歌は沢山ある。湖春など二流の歌学者だからなぁと去来は言った。しかし、スミレと山を詠んだ歌というのは湖春が言うようにほとんど無い。ほとんど無い情景を詠んでいるのが芭蕉の不易流行の真骨頂なのであろうが、去来は師の悪口を言われて頭にきたらしい.。なお、湖春は芭蕉の師北村季吟の息子。上記発言には、父の門下からスーパー俳諧師になった芭蕉へのジェラシーがあったかもしれない。