富貴なる酒屋にあそびて、文君が爪音も、
醉のまぎれに思ひいでらるゝに
酒部屋に琴の音せよ窓の花 維然
人の氣もかく窺はじはつ櫻 沾徳
くもる日や野中の花の北面 猿雖
蓑虫の出方にひらく櫻かな 卓袋
田家
蒟蒻の名物とはんやま櫻 李里
咲かゝる花や飯米五十石 桃首
花笠をきせて似合む人は誰 其角
はれやかに置床なほす花の春 少年一鷺
一日は花見のあてや旦那寺 沾圃
濡縁や薺こぼるゝ土ながら 嵐雪
梟の啼やむ岨の若菜かな 曲翠
守梅のあそび業なり野老賣 其角
里坊に碓きくやむめの花 昌房
投入や梅の相手は蕗のたう 良品
病僧の庭はく梅のさかり哉 曾良
薄雪や梅の際まで下駄の跡 魚日
天神のやしろに詣て
身につけと祈るや梅の籬ぎは 遊糸
ちか道を教へぢからや古柳 江東李由
輪をかけて馬乗通る柳かな 巴丈
鶯に長刀かゝる承塵かな 其角
鶯や柳のうしろ藪のまへ 芭蕉
巣の中や身を細しておや燕 少年峯嵐
雀子や姉にもらひし雛の櫃 槐市
蝿うちになるゝ雀の子飼哉 河瓢
芳野西河の瀧
鮎の子の心すさまじ瀧の音 土芳
深川に遊びて
しら魚をふるひ寄たる四手哉 其角
若草や松につけたき蟻の道 此筋
春の野やいづれの草にかぶれけん 尼羽紅
味ひや櫻の花によめがはぎ 車來
早蕨や笠とり山の柱うり 正秀
我影や月になを啼猫の恋 探丸
うき恋にたえてや猫の盗喰 支考
おもひかねその里たける野猫哉 ミノ巳百
白日しづか也
とまりても翔は動く胡蝶かな 柳梅
風吹に舞の出來たる小蝶かな 出羽重行
振おとし行や廣野の鹿の角 沢雉
苗札や笠縫をきの宵月夜 此筋
白桃やしづくも落ず水の色 桃隣
金柑はまだ盛なり桃の花 介我
伏見かと菜種の上の桃の花 雪芝
花さそふ桃や哥舞伎の脇躍 其角
江東の李由が、祖父の懐旧の法事に、お
のおの経文題のほつ句に、弥陀の光明と
いふ事を、
小服綿に光をやどせ玉つばき 角上
穂は枯て臺に花咲椿かな 残香
山吹や垣に干たる簔一重 闇指
田家の人に對して
山吹も散るか祭のふかなます
洒堂
藪疇や穂麥にとヾく藤の花 荊口
山の端をちから貌なり春の月 長崎魯町
咄さへ調子合けり春の雨 乃龍
春雨や唐丸あがる臺どころ 游刀
なにがし主馬が武江の旅店をたづねける
時、
春雨や枕くづるゝうたひ本 支考
淡雪や雨に追るゝはるの笠 風麥
行つくや蛙の居る石の直 風睡
若草やまたぎ越たる桐の笛 風睡
聲毎に獨活や野老や市の中 苔蘇
木の芽だつ雀がくれやぬけ参 ミノ均水
三尺の鯉はねる見ゆ春の池 仙化
引鳥の中に交るや田蝶とり 支浪
朧夜を白酒賣の名殘かな 支考
若水や手にうつくしき薄氷 少年武仙
莚道は年のかすみの立所哉 百歳
鶯や雑煮過ての里つヾき 尚白
母方の紋めづらしやきそ始 山蜂
詩にいへる衣裳を顛倒すといふ事を、老
父の文に書越し侍れば、
元日や夜ぶかき衣のうら表 千川
人もみぬ春や鏡のうらの梅 芭蕉
楪の世阿彌まつりやかづら 嵐雪
鶯に橘見する羽ぶきかな 土芳
冬年孫をまうけて
元日やまだ片なりの梅の花 猿雖
枇杷の葉のなを慥也初霞 斜嶺
世の業や髭はあれども若夷 山蜂