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笠提げて墓をめぐるや初しぐれ
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笠提げて墓をめぐるや初しぐれ 北枝
先師の墓に詣ての句也。許六曰、是ハ脇よりいふ句なり。自ラ何の疑有てやとハいはん*。去來曰、やハ治定嘆息のや也*。常に人を訪にハ、笠を提て門戸に社入れ。是ハおもひのほかに墓をめぐる事哉やといへる也*。凡ほ句ハ一句を以て聞べし。笠提げて門に這入るやといはゞ疑なき外人の句也*。
- 笠提げて墓をめぐるや初しぐれ:北枝は『奥の細道』で金沢から松岡まで同行した金沢蕉門の人。葬儀には間に合わなかったので後刻膳所義仲庵まで来て、師の墓参りをしたときに詠んだ句。ここでは、「や」が詠嘆か、疑問かの切れ字論争を呼んだ。
- 許六曰、是ハ脇よりいふ句なり。自ラ何の疑有てやとハいはん:
<きょりくいわく、これはわきよりいうくなり。おのずからなんのうたがいありてやといわん>。許六の理解では「めぐるや」の「や」は疑問詞の「や」。ということは、墓をめぐっている北枝本人ではなく、他の誰かが北枝の行動を類推して「笠を提げて師の墓をめぐるのだろうか?この初時雨の日に」ということになる。それなのに、ここで見ているのは自分自身だから何の疑問があるというのだ、というのである。
- 去來曰、やハ治定嘆息のや也:<きょらいいわく、「や」はじじょうたんそくの「や」なり>。ここでの「や」は「〜であることよ=笠下げて墓をめぐることよ」という時の治定、または「〜であることだなぁ=笠下げて墓をめぐることになってしまったなぁ」という時の詠嘆の「や」なのだ。
- 常に人を訪にハ、笠を提て門戸に社入れ。是ハおもひのほかに墓をめぐる事哉やといへる也:<つねにひとをとうには、かさをさげてもんこにこそいれ、これは・・・はかをめぐることかなやといえるなり>。通例、人を訪れるというのは、傘を持って門口から「ごめんください」と言って訪れるものだが、師匠は既に亡くなられてしまって、思いがけず墓を訪れることになってしまったことだなぁ、という意味なのではないか。
- 凡ほ句ハ一句を以て聞べし。笠提げて門に這入るやといはゞ疑なき外人の句也:凡兆は「発句というものは途中に切れ字を入れずに一言で詠むものだ。『笠提げて門に這入るや』といえば、これは他人がその行動を詠んでいるとみなされる」と言った。