みつの枕もこひしかりけり*
凡兆の妻とめ宛の書簡。日付を欠くが、膳所で書いたものらしいので限りなく元禄3年9月28日に近い書簡であると見られている。とめは、後に元禄4年春には僧籍に入って羽紅と名を改めるが、この書簡はおとめ宛になっている。
とめが芭蕉に作ってあげた冬用の着物の御礼が記されている。この頃の凡兆夫婦と芭蕉の強い結びつきが読み取れる。後に不幸な関係になる両者であったが、この時期はまだその萌芽も無い。
加生老:<かせいろう>。おとめの夫凡兆のこと。
去来おみまひ:凡兆と去来が膳所を訪ねたこと。『嵯峨日記』校訂の時期であろう。
きるものどもよろしく御こしらへ、さむくも御ざあるまじく候:羽紅が芭蕉に作ってあげた冬支度の衣類の礼である。あれがあるから、この冬は寒くもないだろうというのである。
よひよひはかまたぎるらんね所のみつの枕もこひしかりけり:この夏、芭蕉は京都の凡兆宅を訪れて、凡兆・羽紅夫婦と三つ枕を並べて三本川になって寝たのである。