坂本に而一宿、早苗に鹿を追声、御なつかしく覚候:ここまでは、三人が先に芭蕉宛に書いて寄越した手紙にあった記事であろう。三人は、近江の坂本で一泊してそこで鹿を追う声を聞いたのであろう。
いづれの秋にかと存る計に御座候:<いずれのあきにかとぞんずるばかりにござそうろう>と読む。坂本の秋が、他の何処の秋より優れていないなどということがあるものですか、の意。
いつ上り可レ申様にも無二御座一:<いつのぼりもうすべくようにもござなく>と読む。再度上方へ行けるのは何時のことかといっても、予定がある訳ではないので、の意。
下向之比、桑名本当寺御会に:<げこうのころ、くわなほんとうじごかいに>と読む。『野ざらし紀行』の途次、ここで句会を催した。なお、本当寺は本統寺の間違い。
熱田の会に:同じく『野ざらし紀行』で熱田を訪れたときの句会。
重而委細に書付可レ進レ之候:<かさねていさいにかきつけこれをしんずべくそうろう>と読む。後刻、詳細にこの間の話を書こうと思っている、の意。芭蕉はこの時期には、「紀行文」をしっかり仕上げるつもりであったか? なお、これら二つの付け句は出版物にはなく不明。