深川芭蕉庵から許六に宛てた現存する2通目の書簡。歳旦帖に掲載する許六の句についての意見、およびそれについて会う予定の連絡が本書簡の目的である。
一昨日岱水に被二指置一候御細翰、拝見:<おとといたいすいにさしおかれそうろうごさいかん、はいけん>:と読む。一昨日、貴方が岱水に託された詳しい書簡を拝見しました、の意。
頃日は別而寒気甚敷:<けいじつはべっしてかんきはなはだしく・・>と読む。この頃は大変寒くて(困っていますが、倒れもしないので先ずは元気だということです)。
歳旦:歳旦句または歳旦吟。正月元日に披露するために俳諧師が年末から本人や弟子達の三つ物などを印刷した句集またはそのための俳句。「白馬の句」なるものが話題になっているようだが詳細は不明。
其上、白馬信州より被レ牽候事、無二覚束一候:<そのうえ、はくばしんしゅうよりひかれそうろうこと、おぼつかなくそうろう>と読む。信州の白馬より馬を牽くというのですが、よく分かりませんね、の意。宮中では、正月7日に白馬の節会があり、夏に駒牽きという行事があるが、許六の歳旦句はそれらが混乱しているというのである。
右馬・左馬寮より中門に引入、御白砂に牽渡ス様に覚申候:<うま・さまりょうよりなかみかどにひきいれ、おんしろたえにひきわたすようにおぼえもうしそうろう>と読む。正月七日の白馬節会では左右の馬寮から白馬を中門に牽き入れて、天覧に供するように覚えていますが、(近頃あまり勉強していないのでうろ覚えです)。許六の句は、有職故実にかかわるものであったらしい。
其元に御覚之事も御座候はゞ、句作御相談、歳旦に成様も可レ有御座候:<そこもとにおんおぼえのこともござそうらはば>、くさくごそうだん、さいたんになりようもあるべくござそうろう>と読む。貴方の方に格別のお考えがあって、句作について御相談があるのなら、歳旦帖への掲載もありうるでしょう、の意。
多賀の詔訴(訴訟)人は珍重に存候:<たがのそしょうにんはちんちょうにぞんじそうろう>と読む。多賀の訴訟人とは、佛頂和尚のことだが、ここでは、許六の句「行年や多賀造宮の訴詔人」なる句をさし、それが大変面白いと言っているのである。あまりおもしろくもないが??。
頃日風吹続候而、方々日限相乱:<けいじつかぜふきつづきそうろうて、ほうぼうにちげんあいみだれ>と読む。このところ毎日強風が吹いて、訪問の予定が狂ってしまいましたので、(先にお伝えしたスケジュールが狂ってしまい、12日にも庵には居ません)、の意。
兎角貴面御相談、仕候はゞ、すみやかに埒明可レ申候間、御苦労被レ成まじく候:<とにかくきめんごそうだん、つかまつりそうらはば、すみやかにらちあきもうすべくそうろうあいだ、ごくろうなさるまじくそうろう>と読む。お会いして話し合えばすぐ解決する話ですからご心配なさいませんように、の意。
桃隣三つ物は○無用に存候間、やめにさせ申候:<とうりんみつものは、(脱字)むようにそうろうあいだ、やめにさせもうしそうろう>。桃隣は、芭蕉庵の同居人。文章は意味不明。
先日煤掃はぜゞ引付に入遣候:<せんじつすすはきはぜぜひきつけにいれつかわしそうろう>と読む。「煤掃」は許六の句「煤掃や蜜柑の皮のやり所」のこと。ぜぜは膳所のことで、この句を膳所歳旦帖の引付(三つ物の後におさめる句)として掲載します、の意。
明日飯後草々御出被レ成、七つまへ迄御かたり候様に御出可レ被レ成候:<あすめしあとそうそうおいでなされ、ななつまえまでおんかたりそうろうようにおいでなさるべくそうろう>と読む。明日早朝お出でになり5時ごろまで打ち合わせできるようにお出かけ下さい、の意。
年内は緩々とは被レ得二御意一申まじく候:<ねんないはゆるゆるとはぎょいをえられもうすまじくそうろう>と読む。明日を除くと年内にゆっくりお話できる機会はありません、の意。
其角方、拙者句もとりに不参、いまだ遅なはり不レ申候間、御せき被レ成まじく候:<きかくかた、せっしゃくもとりにまいらず、いまだおそなわりもうさずそうろうかん、おんせきなさるまじくそうろう>と読む。其角のところでも私の歳旦句を取りに来ていません。