深川芭蕉庵から入門したばかりの許六に宛てた現存する最も古い書簡。『柴門ノ辞』に通ずる芭蕉・許六の関係が分かる書簡。許六とは余程肝胆相照らす関係であったようで、この時期実に頻繁に往来があったようである。
なお、本文中から、芭蕉にとっても歳末は多忙であったことがよく分かって面白い。
長逗留御草臥之気し(き)もなく、御厚志不レ浅辱奉レ存候:<ながとうりゅうおんくたびれのけしきもなく、ごこうしあさからずかたじけなくぞんじたてまつりそうろう>と読む。長時間お邪魔したにもかかわらずくたびれたご様子も無く、ご厚志を頂き有り難く思います、の意。
先々御俳諧筋目よろしく候而深切之義(儀)令レ存候:<まずまずおんはいかいすじめよろしくそうろうてしんせつのぎにぞんぜしめそうろう>と読む。貴方は俳諧の才能も豊かで、(俳諧をやる上で)大切な事でございます、の意。
絵沢山に御書被レ成被レ下珍鋪慰に覚申候:<えたくさんにおかきなされくだされめずらしきなぐさみにおぼえもうしそうろう>と読む。許六は、ディレッタントながら絵の大家の域に達していた。
何とぞ四色五色程覚置申度候:<なにとぞよいろいついろほどおぼえおきもうしたくそうろう>と読む。どうか4種類か5種類の絵を学んでおきたいと思います、の意。
此方御出被レ成候はゞ、十四日・十五日・十六日・十一・二は御除可レ被レ成候:<このほうおいでなされそうらはば、・・・はおのぞきなさるべくそうろう>と読む。芭蕉庵にお出での節は、次の日は除いて下さい、の意。
十八日・十三日は慥に在宿可レ仕候:<・・はたしかにざいしゅくつかまつるべくそうろう>と読む。18日と13日は間違い無く芭蕉庵に居ります。
為レ持被レ遣候物共相達し、忝:<もたせつかわされそうろうものどもあいたっし、かたじけなく>と読む。お送り下さったものは確かに拝受いたしましたが忝く・・。
嵐子方へ三つ物相届可レ申候:<らんしかたへみつものあいとどけもうすべくそうろう>と読む。嵐子方へ三つ物が出来たらお届けしましょう、の意。嵐子は不明。
前夕、嵐蘭・珍夕吟じ見申候:<ぜんせき、らんらん・ちんせきぎんじみもうしそうろう>と読む。以前の夜、貴方と嵐蘭・珍夕と開いた四吟歌仙を見ました、の意。