1年半ぶりに帰着したばかりの江戸から膳所の菅沼曲水宛に滞在中の謝意を込めて書いた書簡。
林甫子両吟:<りんぽしりょうぎん>と読む。「林甫」は、膳所の門弟珍夕の叔父。曲水と林甫の両吟。
世上之俗諧、皆皆ふるび果候處に:<せじょうのぞくかい、みなみなふるびはてそうろうところに>と読む。世の中の俗塵俳諧はもはや、古ぼけたものに成り果てているというのに、の意。
かゝる新智めづらしく、段々とりわき評に不レ及:このような新奇な作品はめずらしく、いちいちとりわけて評論しませんが、の意。
一巻一躰、病盲愚案之情、見たがふ事無二御座一候:<いっかんいってい、びょうもうぐあんのじょう、みたがうことござなくそうろう>と読む。一巻の風体はこの私が見違うなどということは有りません、の意。
いづれも名残をしみ、おとゝしの春深川を出る時に似申候:また皆さんも、名残を惜しんでくれて、まるで『奥の細道』に出発したときの深川の情景とそっくりでありました、の意。
公御一人御缺被レ成、無興のみに御座候間:<こうごいちにんおかけなされ、ぶきょうのみにござそうろうかん>と読む。膳所を発つときに貴方が居られなかったのだけが残念でありました、の意。この時、重臣の曲水には公務でも有ったのか。