芭蕉db

其角宛書簡

(元禄1年12月5日 芭蕉45歳)

 

書簡集年表Who'sWho/basho


  道中此かた、大津より之御状相届、御無事之左右、珍重存候*。爰元我等無異冬籠いたし候。尾州・大津之衆中へも御逢候而、俳諧御聞候よし、珍重。冬中御下り候とかや申者も有之候へ共、拙者覚も有之、寒威道中、草の枕もくるしき時節、大かた春にと推量いたす事に候。処々風景御作意、感心いたし候。たびにては句も出難きものにて候に、おかしき句共出候而、感じ申事に候。江戸、発句したるものも無之、五句付の句普請に性心つゐやすのみに見え候*。歳旦之事、年々わりなき事に而板木にも出候、当年はやすみ候。句見えずとて御ふしぎあるまじく候。人々つくさるゝヲ、緩々見物可致候。嵐雪三物、相手も柳糸とやらに究候よし*。愚老、物やかましく候間、此方へきかせず、いかやう共していたせと申たるにて候*。路通など折々云捨、草庵の侘会、其おもしろさ、路通が妙作、驚鬼計に候*。予が楽も爰に極り候。俳諧の外は心頭にかけず、句のほかは口にとなへず、儒佛神道の弁口、共にいたづら事と、閉口閉口。以上
    極月五日            芭蕉翁
   其角生丈

去来・允宵*両子へ御心得たのみ存候。湖春御遭候はヾ、御心得*。春は早々、干
今残念に存候。万葉集出来候哉*。急便承度候。五条之老翁、御機嫌いぶかしく奉存而己*

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 上方旅行中の門弟其角に宛てた書簡。 其角から来た大津からの書簡に対する返信である。 江戸市中で行われている俳諧五句付けという博打への非難、嵐雪との不仲、それに比して路通の上達などを書いている。また、追伸で、師の季吟の万葉集の著作に強い関心を示しているのが興味深い。