膳所で書いた名古屋の門人荷兮に充てた書簡である。加賀の門人達の出版した『卯辰集』への支援などのこと、また九州や四国への旅のこころづもりなども記されている。この旅は結局実現しなかった。
越人へ冬申達候。相届可レ申候:<えつじんへふゆもうしたっしそうろう。あいとどきもうすべくそうろう>と読む。越人は、名古屋の門人で、『更科紀行』の旅に同行した。昨年の暮、越人に申し上げておいたことはお聞き及びだと思います、の意。話題の中身は不明。
歳旦三つ物御家例可レ為と存候:<さいたんみつものごかれいたるべくとぞんじそうろう>と読む。「歳旦三つ物」とは、歳旦吟を発句として脇・第三までの連句のこと。歳旦三つ物は貴家の例年の行事として為されたことでありましょう、の意。
おましの浦に波枕して:「おまし」は「おもの」の誤記。「おものの浦」とは、粟津の浜のこと。大津膳所に旅寝をしている、の意。この年、芭蕉は膳所で越年した。
集あみ候よし申来候:<しゅうあみそうろうよしもうしきたりそうろう>と読む。この時、金沢の門人北枝が『卯辰集』を出版した。
尤当度あらましに聞届:「当度」が誤記と思われ意味不明だが、山中温泉で北枝にせがまれて開いた次項の三吟歌仙をさすのであろう。
発句□越人・野水など仰合被レ遣可レ申候:<ほっく□えつじん・やすいなどおおせあわせつかわされもうすべくそうろう>と読む。一字欠落したため意味不明。越人や野水に句会を開くよう依頼しては如何でしょうというのだが・・・。
ゼヾの孫右衛門:膳所の水田正秀のこと。
わりなき事出来候間:<わりなきことしゅったいそうろうかん>と読む。伊賀藩藤堂家からの招きで伊賀に帰ることを勧められていることを指す。
四国の山ぶみ・つくしの舩路、いまだこゝろさだめず候:芭蕉は四国・九州への旅を計画していたのである。舩路は<ふなじ>と読む。