只今愚庵に承り候
江戸から伊賀上野の猿雖こと意専宛書簡。猿雖が草庵を結びその庵号を芭蕉に願い出たのは7月頃のことだったという。これに応える形で書いた書簡。
七月ごろいづ方やらの便りに御状到来:7月頃に誰かからの便りと共に貴方のお手紙を頂いていました、の意。伊賀上野から贈り物でも有ったか?
卓袋が赤味噌のとろゝ汁もなつかしく罷成候:卓袋の赤味噌のとろろ汁を思い出して懐かしく思っています、の意。卓袋は伊賀の門人。
京屋ぬき味曽(噌)くはるゝ時節に罷成候:<きょうや・・じせつにまかりなりそうろう>と読む。京屋は伊賀上野の味噌屋。この地方では白味噌が中心で、それをぬきみそと言い、この季節にはその新しい「ぬきみそ」が売り出されたのである。
御客人御息災に御座候哉、御噂たのみ候:<おきゃくじんおんそくさいにござそうろうや、おうわさたのみそうろう>と読む。お客人が誰を指すかは不明だが、意専と芭蕉にとって共通の知人で重要人物らしい。その人はお元気ですか、消息を知りたいものです、の意。
車坂屋山の方に草罨御結被レ成候に付、号可レ申よし、則存寄候間書付申候:<くるまざかややまのかたにそうあんおむすびなされそうろうにつき、ごうもうすべきよし、すなわちぞんじよりそうろうあいだもうしつけそうろう>と読む。伊賀上野の車坂町屋山に草庵を結ばれるので、その名前を付けるようにとのことですので、下記のようにつけてみました、の意。二つの案を提示して、藪際なら東麓庵、それが西に寄っていたら西麓庵としたら、という提案。
土芳に物ずき御究させ可レ被レ下候:<とほうにものづきおきわめさせくださるべくそうろう>と読む。土芳は有職故実に詳しいので、この庵号で縁起がよいかどうか調べてもらってください、というのである。
卓袋参り候はゞ御かたり可レ被レ下候:<たくたいまいりそうらわばおんかたりくださるべくそうろう>と読む。卓袋がやってきたらよろしく仰ってください、の意。
さても人にまぎらされ、こゝろ隙無二御座一候:<・・、こころひまござなくそうろう>。この時期、まだ洒堂(珍碩)が長逗留を決め込んでいるし、人々の出入りが繁かった。