芭蕉は、『笈の小文』の旅で、故郷伊賀上野で年を越し、貞亨5年2月4日伊勢に入った。嵐雪の弟子
葛西嵐朝亭に落着いて伊勢山田からこの書簡を発している。受取人の平庵は、この時浪人中であるので武士階級の人らしいが詳細は不明。
語るに落ちる話として、伊良子岬に逼塞しているはずの杜国がここ伊勢に芭蕉と同道していることが文中追伸で分かる。杜国は、禁足の判決を受けているのにである。だから、『笈の小文』では、吉野山で合流したことになっているが、すでに伊勢では一緒だったのだから、旅の半分を二人は同道したことになる。大らかなものである。
痛入たる御音信忝奉レ存候:<いたみいりたるごいんしんかたじけなくぞんじたてまつりそうろう>と読む。音信は、この場合贈り物を指す。平庵が芭蕉に何か贈ったのであろう。
一両日御物遠罷過候:<いちりょうじつおんものどうにまかりすぎそうろう>と読む。このところ御無沙汰いたしておりました、の意。
嵐朝へ参、一宿仕候:<らんちょうへまいり、いっしゅくつかまつりそうろう>と読む。嵐朝方へ来て、投宿しています、の意。嵐朝は嵐雪の門人で伊勢山田に住んでいた。
先以、先夜民部殿へ被二召寄一候而御厚志之御馳走:<まずもって、せんやみんぶどのへめしよせられそうろうてごこうしのごちそう>と読む。先夜、網代民部雪堂弘員殿に招かれて御馳走のおもてなしをうけましたが、の意。民部は伊勢神宮の神官。
御亭主振感心:<ごていしゅぶりかんしん>と読む。あなたが民部殿に紹介しておいてくれたから、民部殿の応対が大変よろしかった、の意。
明日二見への心ざし御座候へ共:明日は二見が浦を見物に行こうという計画ですが、(この天気では延期せざるを得ない)というのである。
乍レ去御牢人之御心遣、却而痛入申候:<さりながらごろうにんのおこころづかい、かえっていたみいりもうしそうろう>と読む。浪人の身のあなたのお心づかいですから、かえって心が痛みます、の意。
亭主且野人:<ていしゅかつのひと>と読む。亭主は嵐朝、野人は杜国のこと。すでに杜国はこの段階で旅を共にして居ることが分かる。
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