深川芭蕉庵から、怒誰に宛てた書簡。洒堂が江戸から膳所を経由して大坂にプロの俳諧師として立机し、この若者に対する話題が中心になっている。洒堂はこれから大坂の之道と確執を起こし、後に芭蕉が大坂に出向いて仲裁に入ることになるのだが、その始まりがこの時期であった。
御修行つのり行申候哉:<ごしゅうぎょうつのりいきもうしそうろうや>と読む。俳諧の修業は成果を上げていますか、いますことでしょうね、の意。
聊間断におゐて□馬の蝿に驚:<いささかかんだんにおいて うまのはえにおどろき>と読む。「間断」は勉強を怠けている時間のこと。怠けていると後輩に遅れを取ります、の意。「馬の蝿」は馬のような足の早いものでもすぐ後ろから蝿がついてくることを意味する。
逍遥無何有の郷を失ルものならん:<しょうようむかゆうのきょうをうしなえるものならん>と読む。「逍遥無何有の郷」とは、無為自然の世界をいう(『荘子』逍遥遊篇より)。怠けているとそういう世界を失うことになりますという警告。
洒堂より頃日書状指越候:<しゃどうよりけいじつしょじょうさしこしそうろう>と読む。洒堂から手紙がきたことは曲水宛書簡にもあった。
貴辺よりなど聊被レ仰遣候事も候にて:<きへんよりなどいささかおおせつかわされそうろうこともそうろうにて>と読む。洒堂が「何事もあいこころえそうろうともうしこしそうろう」と殊勝なことを言ってきたのは貴方などからの忠告が効いているものと見えます、の意。
存知之外胸裏分別を重宝仕ると相見え候:<ぞんちのほかきょうりふんべつをちょうほうつかまつるとあいみえそうろう>と読む。案外のことに洒堂も分別を胸に秘めて大切に思っているようです、の意。
爰に繋縛せられ生涯是非の溝洫に□溺候へば:<ここにけいばくせられしょうがいぜひのこうきょくに□おぼれそうらえば>と読む。是非を争う狭い了見に束縛されてしまって、の意。
正秀:水田正秀。林甫:洒堂の叔父.。
久々左右も不レ承候:<ひさびさそうもうけたまわらず>と読む。「左右」とは情報のこと。正秀や林甫から手紙が無いというのである。
乍レ去此方御合力には御状被レ下まじき由奉レ頼候:<さりながらこのほうおんごうりきにはごじょうくださるまじきよしたのみたてまつりそうろう>と読む。「御合力」は金銭的援助で正秀らが送金するための手紙のこと。そのようなものなら不要だと言ってください、の意。
此度状数少々御座候間:<このたびじょうすうしょうしょうござそうろうかん>と読む。返事を書かなくてはいけない手紙が沢山ありまして、の意。
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、の意。