徒然草(下)

第164段 世の人相逢ふ時、暫くも黙止する事なし。


 世の人相逢ふ時、暫くも黙止する事なし*。必ず言葉あり。その事を聞くに、多くは無益の談なり。世間の浮説、人の是非*、自他のために、失多く、得少し。

 これを語る時、互ひの心に、無益の事なりといふ事を知らず。

世の人相逢ふ時、暫くも黙止する事なし:<よのひとあいあうとき、しばらくももだすることなし>と読む。世人は、道端なので知人と遭ったときに、必ず何か喋るものだ。こういうのをコミュニケーションというのだから当然だが・・ところが、・・

世間の浮説、人の是非:「浮説」はうわさ話など、「人の是非」は要するに悪口。


 何時の時代も人は同じことをやってきたのだということ。


 よのひとあいあうとき、しばらくももだすることなし。かならずことばあり。そのことをきくに、おおくはむやくのだんなり。せけんのふせつ、ひとのぜひ、じたのために、 しつおおく、とくすくなし。

 これをかたるとき、たがいのこころに、むえきのことなりといふことをしらず。