徒然草(上)

第105段 北の屋蔭に消え残りたる雪の、


 北の屋蔭に消え残りたる雪の*、いたう凍りたるに、さし寄せたる車の轅も、霜いたくきらめきて、有明の月、さやかなれども、隈なくはあらぬに、人離れなる御堂の廊に*、なみなみにはあらずと見ゆる男、女となげしに尻かけて*、物語するさまこそ、何事かあらん、尽きすまじけれ*

 かぶし・かたちなどいとよしと見えて*、えもいはぬ匂ひのさと薫りたるこそ*、をかしけれ。けはひなど、はつれはつれ聞こえたるも*、ゆかし。

北の屋蔭に消え残りたる雪の :家の北側の日陰に雪が残っているのである。寒い冬の季節である。牛車の轅<ながえ>が霜に白く光っているぐらいなのだから。

人離れなる御堂の廊に:ひと気の無い御堂。この御堂は、大きな邸内の御堂で、人里はなれた神社仏閣のことではないらしい。  

なみなみにはあらずと見ゆる男、女となげしに尻かけて:並でない男女とは、身分の低くない男と女。かれらはこの寒さの中、何を話しているのか??

尽きすまじけれ:話は尽きないらしい。

かぶし・かたちなどいとよしと見えて:頭つきも容貌も非常に立派に見えて。

えもいはぬ匂ひのさと薫りたるこそ:この個所不明。「えもいはぬ匂いさへこおりたる」とすれば、良い匂いでさえも凍りつくようなのこそ面白い、の意か???。

はつれはつれ聞こえたるも:「はつれはつれ」はとぎれとぎれに聞こえること。


 前段に続いて、なにやら艶っぽい雰囲気だけが漂っていながら、何を伝えたいのか??? 作者はこれをどこでどうやって見ているのか?時刻も尋常の時刻ではない様だが・・?


 きたのやかげにきえのこりたるゆきの、いとうこうりたるに、さしよせたるくるまのながえも、しもいたくきらめきて、ありあけのつき、さやかなれども、くまなくなくはあらぬに、ひとばなれなるみどうのろうに、なみなみにはあらずとみゆるおとこ、おんなとなげしにしりかけて、ものがたりするさまこそ、なにごと にかあらん、つきすまじけれ。

 かぶし・かたちなどいとよしとみえて、えもいはぬにおいのさとかおりたるこそ、おかしけれ。けはいなど、はつれはつれきこえたるも、ゆかし。