徒然草(上)

第63段 後七日の阿闍梨、武者を集むる事


 後七日の阿闍梨*、武者を集むる事*、いつとかや、盗人にあひにけるより、宿直人とて*、かくことことしくなりにけり*。一年の相は、この修中のありさまにこそ見ゆなれば*、兵を用ゐん事、穏かならぬことなり。

後七日の阿闍梨:後七日の修法をつとめる阿闍梨。「後七日」は1月8日から一週間宮中で行う宗教行事。国家安全・五穀豊穣・天皇安泰などを祈願する。阿闍梨はその折の導師でこれは東寺の僧侶が 当たった。

武者を集むる事:治安が悪く、盗賊が徘徊したので武士に警護されながら行った時代があった。実は、保元の乱の時代。

宿直人とて:<とのいびととて>と読む。護衛の兵を「宿直人」とよんで警護させたのである。

かくことことしくなりにけり:このようにものものしいことになってしまった。

一年の相は、この修中のありさまにこそ見ゆなれば:国家一年の 吉凶は、この修法にあるのであるから、。


 本文執筆時期は多少治安はよくなっていたのであろう。兼好の人生は、鎌倉幕府の崩壊と建武の中興の時期を経て、南北騒乱の室町幕府の草創の不安定期という疾風怒濤の時代とぴったり一致しているのである。


 ごしちにちのあざり、むしゃをあつむること、いつとかや、ぬすびとにあいにけるより、とのいびととて、かくことことしくなりにけり。ひととせのそうは、このしゅじゅうのありさまにこそみゆなれば、つわまものをもちいんこと、おだやかならぬことなり。