徒然草(上)

第16段 神楽こそ、なまめかしく、おもしろけれ。


 神楽こそ*、なまめかしく*、おもしろけれ*

 おほかた、ものの音には、笛・篳篥*。常に聞きたきは、琵琶*・和琴*

神楽こそ<かぐら>。神をまつるために奏する舞楽。宮中の神事芸能で、先行の琴歌神宴(きんかしんえん)などに、石清水八幡(いわしみずはちまん)などの民間の神遊びを取り込み、平安時代に内侍所御神楽(ないしどころみかぐら)として完成。楽人は左右の本方(もとかた)・末方(すえかた)の座に分かれ、歌い奏し、主要部分では舞を伴う。御神楽(みかぐら)(『大字林』より)。上記で、琴歌神宴とは、和琴(わごん)の伴奏で、神楽のときなどにうたった上代の歌謡(『大字林』より)。

なまめかし現代語のあだっぽい、色気がある、とは違い、優雅で気品がある。趣がある。上品だ。

おもしろい:心をひかれること。気持ちがいい。好ましい。望ましい、など現代語とは微妙にずれている。

篳篥<ひちりき>と読む。雅楽の管楽器の一。奈良初期に中国から伝来した縦笛の一種。現在のものは、長さ六寸の竹管の表に七孔、裏に二孔をあけ、上端に蘆製の舌を挿入したもの。音は強く、哀調を帯びる(『大字林』から)。

琵琶:東洋の弦楽器。木製の扁平(へんぺい)な茄子(なす)形の胴に、四、五本の弦を張ったもの。日本のものはふつう四〜五個の柱(じゆう)をつけ、撥(ばち)で奏する。起源はペルシアとされ、中央アジア・中国・朝鮮半島を経て、奈良時代に日本に伝来。雅楽に用いられ(楽琵琶)、のち盲僧琵琶・平家琵琶・薩摩(さつま)琵琶・筑前琵琶などが生まれた(『大字林』より)。

和琴:<わごん>と読む。日本の弦楽器の一。神楽・東遊(あずまあそ)びなど、雅楽の日本古来の歌舞に用いる六弦の琴。多くは桐(きり)製で、長さ約190p。柱(じ)はカエデの枝をそのまま用いる。右手に持った琴軋(ことさき)(長さ7cmほどの鼈甲(べつこう)製の撥(ばち))と左手の指で弾く。やまとごと。あずまごと(『大字林』より)。


 700年前の兼好の音楽趣味。今の世に、彼を招いてオーケストラの大音響やらロックバンドの一大騒音を聴かせたらなんと言うのか興味津々。しからば今から700年後の人間共は、現代人の音楽趣味をなんと見るのだろう???


 かぐらこそ、なまめかしく、おもしろけれ。

 おおかた、もののねには、ふえ・ひちりき。つねにききたきは、びわ・わごん。