すみたはら

俳諧炭俵集  上巻

三吟 ふか川にまかりて 百韻 春之部發句 夏部之發句


 

                 芭蕉

むめがゝにのつと日の出る山路かな

 處々に雉子の啼たつ        野坡

家普請を春のてすきにとり付て    仝

 上のたよりにあがる米の直     芭蕉

宵の内ばらばらとせし月の雲     仝

 藪越はなすあきのさびしき     野坡

御頭へ菊もらはるゝめいわくさ    野坡

 娘を堅う人にあはせぬ       芭蕉

奈良がよひおなじつらなる細基手   野坡

 ことしは雨のふらぬ六月      芭蕉

預けたるみそとりにやる向河岸    野坡

 ひたといひ出すお袋の事      芭蕉

終宵尼の持病を押へける       野坡

 こんにやくばかりのこる名月    芭蕉

はつ雁に乘懸下地敷て見る      野坡

 露を相手に居合ひとぬき      芭蕉

町衆のつらりと酔て花の陰      野坡

 門で押るゝ壬生の念佛       芭蕉

東風風に糞のいきれを吹まはし    仝

 たヾ居るまゝに肱わづらふ     野坡

江戸の左右むかひの亭主登られて   芭蕉

 こちにもいれどから臼をかす    野坡

方々に十夜の内のかねの音      芭蕉

 桐の木高く月さゆる也       野坡

門しめてだまってねたる面白さ    芭蕉

 ひらふた金で表がへする      野坡

はつ年に女房のおやこ振舞て     芭蕉

 又このはるも済ぬ牢人       野坡

法印の湯治を送る花ざかり      芭蕉

 なは手を下りて麥の出來     野坡

どの家も東の方に窓をあけ      野坡

 魚に喰あくはまの雑水       芭蕉

千どり啼一夜一夜に寒うなり     野坡

 未進の高のはてぬ算用       芭蕉

隣へも知らせず嫁をつれて来て    野坡

 屏風の陰にみゆるくはし盆     芭蕉


  三吟

 

                 嵐雪

兼好も莚織けり花ざかり

 あざみや苣に雀鮨もる       利牛

片道は春の小坂のかたまりて     野坡

 外を ざまくに圍ふ相撲場      嵐雪

細々と朔日ごろの宵の月       利牛

 早稲も晩稲も相生に出る      野坡

泥染を長き流にのばすらん      野坡

 あちこちすれば昼のかねうつ    利牛

隣から節々嫁を呼に來る       野坡

 てうてうしくも譽るかいわり    嵐雪

黒谷のくちは岡崎聖護院       利牛

 五百のかけを二度に取けり     野坡

綱ぬきのいぼの跡ある雪のうへ    嵐雪

 人のさわらぬ松Kむ也       利牛

雑役の鞍を下せば日がくれて     野坡

 飯の中なる芋をほる月       嵐雪

漸と雨降やみてあきの風       利牛

 鶏頭みては又鼾かく        野坡

奉公のくるしき顔に墨ぬりて     嵐雪

 抱揚る子の小便をする       利牛

ぐわたぐわたと河内の荷物送り懸   野坡

 心みらるゝ箸のせんだく      嵐雪

婿が来て娘の世とは成にけり     利牛

 ことしのくれは何も囉はぬ     野坡

金佛の細き御足をさするらん     嵐雪

 此かいわいの小鳥皆よる      利牛

黍の穂は残らず風に吹倒れ      野坡

 馬場の喧嘩の跡にすむ月      嵐雪

弟はとうとう江戸で人になる     利牛

 今に庄やのくちはほどけず     野坡

賣手からうつてみせたるたゝき鉦    嵐雪

 ひらりひらりとゆきのふり出し   利牛

鎌倉の便きかせに走るらする     野坡

 かした處のしれぬ細引       嵐雪

獨ある母をすゝめて花の陰      利牛

 まだかびのこる正月の餅      野坡


  ふか川にまかりて

                 孤屋

空豆の花さきにけり麥の縁

 昼の水鶏のはしる溝川       芭蕉

上張を通さぬほどの雨降て      岱水

 そつとのぞけば酒の最中      利牛

寝處に誰もねて居ぬ宵の月      芭蕉

 どたりと塀のころぶあきかぜ    孤屋

きりぎりす薪の下より鳴出して    利牛

 晩の仕事の工夫するなり      岱水

いもうとをよい處からもらはるゝ    孤屋*

 僧都のもとへまづ文をやる     芭蕉

風細う夜明がらすの啼わたり     岱水

 家のながれたあとを見に行     利牛

鯲汁わかい者よりよくなりて     芭蕉

 茶の買置をさげて賣出す      孤屋

この春はどうやら花の静なる     利牛

 かれし柳を今におしみて      岱水

雪の跡吹はがしたる朧月       孤屋

 ふとん丸げてものおもひ居る    芭蕉

不届な隣と中のわるうなり      岱水

 はつち坊主を上へあがらす     利牛

泣事のひそかに出來し浅ぢふに    芭蕉

 置わすれたるかねを尋ぬる     孤屋

着のまゝにすくんでねれば汗をかき  利牛

 客を送りて提る燭臺        岱水

今のまに雪の厚さを指てみる     孤屋

 年貢すんだとほめられにけり    芭蕉

息災に祖父のしらがのめでたさよ   岱水

 堪忍ならぬ七夕の照り       利牛

名月のまに合せ度芋畑        芭蕉

 すたすたいふて荷ふ落鮎      孤屋

このごろは宿の通りもうすらぎし   利牛

 山の根際の鉦かすか也       岱水

よこ雲にそよそよ風の吹き出す    孤屋

 晒の上にひばり囀る        利牛

花見にと女子ばかりがつれ立て    芭蕉

 余のくさなしに 菫たんぽゝ     岱水

  芭蕉

  孤屋

岱水

  利牛

   各九句


  百韻

                 利牛

子は裸父はてゝれで早苗舟

 岸のいばらの眞ツ白に咲      野坡

雨あがり珠数懸鳩の鳴出して     孤屋

 与力町よりむかふ西かぜ      利牛

竿竹に茶色の紬たぐりよせ      野坡

 馬が離れてわめく人聲       孤屋

暮の月干葉の茹汁わるくさし     利牛

 掃ば跡から檀ちる也        野坡

ぢゝめきの中でより出するりほあか  孤屋

 坊主になれどやはり仁平次     利牛

松坂や矢川へはいるうら通り     野坡

 吹るゝ胼もつらき闇の夜      孤屋

十二三弁の衣裳の打そろひ      利牛

 本堂はしる音は どろどろ      野坡

日のあたる方はあからむ竹の色    孤屋

 只奇麗さに口すゝぐ水       利牛

近江路のうらの詞を聞初て      野坡

 天氣の相よ三か月の照       孤屋

生ながら直に打込むひしこ漬     利牛

 椋の實落る屋ねくさる也      野坡

帯賣の戻り連立花ぐもり       孤屋

 御影供ごろの人のそはつく     利牛

ほかほかと二日灸のいぼひ出     野坡

 ほろほろあへの膳にこぼるゝ    孤屋

ない袖を振てみするも物おもひ    利牛

 舞羽の糸も手につかず操      野坡

段々に西国武士の荷のつどひ     孤屋

 尚きのふより今日は大旱      利牛

切うじの喰倒したる植たばこ     野坡

 くばり納豆を仕込廣庭       孤屋

瘧日をまぎらかせども待ごゝろ    利牛

 藤ですげたる下駄の重たき     野坡

つれあひの名をいやしげに呼まはり  孤屋

 となりの裏の遠き井の本      利牛

くれの月横に負來る古柱       野坡

 ずいきの長のあまるこつてい    孤屋

ひつそりと盆は過たる浄土寺     利牛

 戸でからくみし水風呂の屋ね    野坡

伐透す樅と檜のすれあひて      孤屋

 赤い小宮はあたらしき内      利牛

濱迄は宿の男の荷をかゝえ      野坡

 師走比丘尼の諷の寒さよ      孤屋

餅搗の臼を年々買かへて       利牛

 天滿の状を又忘れけり       野坡

廣袖をうへにひつぱる舩の者     孤屋

 むく起にして参る觀音       利牛

燃しさる薪を尻手に指くべて     野坡

 十四五両のふりまはしする     孤屋

月花にかきあげ城の跡ばかり     利牛

 弦打颪海雲とる桶         孤屋

機嫌能かいこは庭に起かゝり     野坡

 小昼のころの空静也        利牛

縁端に腫たる足をなげ出して     孤屋

 鍋の鑄かけを念入てみる      野坡

麥畑の替地に渡る傍じ杭       利牛

 賣手もしらず頼政の筆       孤屋

物毎も子持になればだヾくさに    野坡

 又御局の古着いたヾく       利牛

妓王寺のうへに上れば二尊院     孤屋

 けふはけん がく寂しかりけり    野坡

薄雪のこまかに初手を降出し     利牛

 一つくなりに鱈の雲膓       孤屋

錢さしに菰引ちぎる朝の月      野坡

 なめす ヾきとる裏の塀あはひ    利牛

めを縫て無理に鳴する鵙の聲     孤屋

 又だのみして美濃だよりきく    野坡

かゝさずに中の巳の日をまつる也   利牛

 入来る人に味噌豆を出す      孤屋

すぢかひに木綿袷の龍田川      野坡

 御茶屋のみゆる宿の取つき     利牛

ほやほやとどんどほこらす雲ちぎれ  孤屋

 水菜に鯨まじる惣汁        野坡

花の内引越て居る樫原        利牛

 尻輕にする返事聞よく       孤屋

おちかゝるうそうそ時の雨の音    野坡

 入舟つヾく月の六月        利牛

拭立てお上の敷居ひからする     孤屋

 尚云つのる詞からかひ       野坡

大水のあげくに畑の砂のけて     利牛

 何年菩提しれぬ栃の木       孤屋

敷金に弓同心のあとを継       野坡

 丸九十日隰をわづらふ       利牛

投打もはら立まゝにめつた也     孤屋

 足なし碁盤よう借に来る      野坡

里離れ順礼引のぶらつきて      利牛

 やはらかものを嫁の襟もと     孤屋

氣にかゝる朔日しまの精進箸     野坡

 うんぢ果たる八専の空       利牛

丁寧に仙臺俵の口かヾり       孤屋

 訴訟が済で土手になる筋      野坡

夕月に醫者の名字を聞はつり     利牛

 包で戻る鮭のやきもの       孤屋

定免を今年の風に欲ぼりて      野坡

 もはや仕事もならぬおとろへ    利牛

暑病の殊土用をうるさがり      孤屋

 幾月ぶりでこゆる逢坂       野坡

減もせぬ鍛冶屋のみせの店ざらし   利牛

 門建直す町の相談         孤屋

彼岸過一重の花の咲立て       野坡

 三人ながらおもしろき哉      執筆


  春之部發句

蓬莱に聞ばや伊勢の初便       芭蕉

東雲やまいら戸はづすかざり松    濁子

みちのくのけふ関越ん箱の海老    杉風

春や祝ふ丹波の鹿も帰とて      去来

刀さす供もつれたし今朝の春    膳所正秀

いそがしき春を雀のかきばかま   大坂洒堂

喰つみや木曽のにほいの檜物     岱水

猶いきれ門徒坊主の水祝ひ      沾圃

目下にも中の詞や年の時宜      孤屋

初日影我莖立とつまればや      利牛

長松が親の名で来る御慶哉      野坡

  梅

梅一木つれづれ草の姿かな      露沾

むめ咲や臼の挽木のよきまがり    曲翠

むめが香の筋に立よるはつ日哉    支考

窓のうちをみこみて
むめちるや糸の光の日の匂ひ   伊賀土芳

梅さきて湯殿の崩れなほしけり    利牛

赤みその口を明けりむめの花     游刀

みなみなに咲そろはねど梅の花    野坡

紅梅は娘すまする妻戸哉       杉風

おなごどもの七くさはやすをみて
とばしるも顔に匂へる薺哉      其角

七種や粧ひしかけて切刻み      野坡

うちむれてわかな摘野に脛かゆし   仙杖

洛よりの文のはしに
朧月一足づゝもわかれかな      去来

大はらや蝶の出てまふ朧月     丈艸

おぼろ月まだはなされぬ頭巾かな   仙花

深川の会に
長閑さや寒の残りも三ケ一      利牛

十五日立や睦月の古手賣      大坂之道

猫の恋初手から鳴て哀也       野坡

ねこの子のくんづほぐれつ胡蝶哉   其角

  鶯

うぐひすにほうと息する朝哉     嵐雪

鶯に薬をしへん聲の文        其角

うぐひすの聲に起行雀かな      桃隣

うぐひすや門はたまたま豆麩賣    野坡

鶯の一聲も念を入にけり       利牛

  柳

こねりをもへらして植し柳かな    湖春

障子ごし月のなびかす柳かな     素龍

五人ぶちとりてしだるゝ柳かな    野坡

せきれいの尾は見付ざる柳哉     一風

町なかへしだるゝ宿の柳かな     利牛

傘に押わけみたる柳かな       芭蕉

  椿

土はこぶ籮にちり込椿かな      孤屋

枝長く伐らぬ習を椿かな       湖春

念入て冬からつぼむ椿かな      曲翠

鋸にからきめみせて花つばき     嵐雪

鳥のねも絶ず家陰の赤椿       支考

はき掃除してから椿散にけり     野坡

  花

うえのゝ花見にまかり侍しに、人々幕打
さはぎ、ものゝ音、小うたの聲さまざま
なりにける。かたはらの松かげをたのみて
四つごきのそろはぬ花見心哉     芭蕉

めづらしや内で花見のはつめじか   杉風

うかうかと來ては花見の留守居哉   丈艸

何がしのかうの殿の花見に侍りて
中下もそれ相應の花見かな      素龍

花守や白きかしらを突あはせ     去来

朝めしの湯を片膝や庭の花      孤屋

あすと云花見の宵のくらき哉     荊口

だかれてもおのこヾいきる花見哉   斜嶺

柿の袈裟ゆすり直すや花の中     北枝

牡丹すく人もや花見とはさくら    湖春

あだなりと花に五戒の櫻かな     其角

花はよも毛虫にならじ家櫻      嵐雪

やまざくらちるや小川の水車  大津あま智月  

老僧も袈裟かづきたる花見哉    大坂之道

誰が母ぞ花に數珠くる遲ざくら    祐甫

山櫻小川飛こすおなご哉    越前福井普全

昆布だしや花に気のつく庫裏坊主   利牛

おちつきは魚やまかせや櫻がり    仝

折かへる櫻でふくや臺所       孤屋

祭まであそぶ日なくて花見哉     野坡

食の時みなあつまるや山ざくら    仝

  上巳

帯ほどに川のながるゝ塩干哉     沾徳

昼舟に乗るやふしみの桃の花     桃隣

かつらぎの神はいづれぞ夜の雛    其角

鬼の子に餅を居るもひゐな哉   みの如行

日半路をてられて來るや桃の花    野坡

麻の種毎年踏る桃の華        利牛

藪垣や馬の貌かくもゝの花      孤屋

青柳の泥にしだるゝ塩干かな     芭蕉

  題知らず

瀧つぼに命打こむ小あゆ哉    嵯峨田夫為有

春雨や蜂の巣つたふ屋ねの漏     芭蕉

散残るつゝじの蘂や二三本      子珊

ほそぼそとごみ燒門のつばめ哉    怒誰

鳥の行やけのゝ隈や風の末    伊賀猿雖

氣相よき青葉の麥の嵐かな      仙華

旅行にて
法度場の垣より内はすみれ哉     野坡

此集いまだ半なる比、孤屋旅立事ありけ
るに品川までみ送りて
雲霞どこまで行もおなじ事      野坡

梅さくらふた月ばかり別れけり    利牛


  夏部之發句

  首夏

塩うをの裏ほす日也衣がへ      嵐雪

衣がへ十日はやくば花ざかり     野坡

綿をぬく旅ねはせはし衣更      九節

雀よりやすき姿や衣がへ       雪芝

花の跡けさはよほどの茂りかな    子珊

扇屋の暖簾白し衣がへ        利牛

  うの花

卯の花やくらき柳の及ごし      芭蕉

うのはなの絶間たゝかん闇の門    去来

旅行に
うの花に芦毛の馬の夜明哉      許六

卯の花に扣ありくやかづらかけ    支考

  題しらず

棹の歌はやうら涼しめじか舟     湖春

髭宗祇池に蓮ある心かな       素堂

うぐひすや竹の子藪に老を鳴     芭蕉

  郭公

聞までは二階にねたりほとゝぎす   桃隣

ほとゝぎす一二の橋の夜明かな    其角

行燈を月の夜にせんほとゝぎす    嵐雪

(提)灯の空に詮なしほとゝぎす    杉風

木がくれて茶摘も聞やほとゝぎす   芭蕉

青雲や舟ながしやる子規       素龍

時鳥啼々風が雨になる        利牛

子規顔の出されぬ格子哉       野坡

  麥

柿寺に麥穂いやしや作どり     みの荊口

麥の穂と共にそよぐや筑波山     千川

麥跡の田植や遲き螢とき       許六

翁の旅行を川さきまで送りて
刈こみし麥の匂ひや宿の内      利牛

おなじ時に
麥畑や出ぬけても猶麥の中      野坡

おなじこゝろを
浦風やむらがる蝿のはなれぎは    岱水

  端午

五月雨や傘に付たる小人形      其角

さうぶ懸てみばやさつきの風の音  大坂洒堂

五日迄水すみかぬるあやめかな    桃隣

文もなく口上もなし粽五把      嵐雪

みをのやは首の骨こそ甲なれ     仙花

帷子のしたぬぎ懸る袷かな      素龍

  夏旅

並松をみかけて町のあつさかな    臥高

枯柴に昼貌あつし足のまめ      斜嶺

二三番鶏は鳴どもあつさ哉     長崎魯町

はげ山の力及ばぬあつさかな     猿雖

するが地や花橘も茶の匂ひ      芭蕉
   
この句は島田よりの便に

  五月雨

さみだれやとなりへ懸る丸木橋    素龍

五月雨の色やよど川大和川      桃隣

さみだれに小鮒をにぎる子供哉    野坡

五月雨や露の葉にもる(やまごぼう) 嵐蘭
  
 この句は嵐蘭より書てよこしぬ

五月雨や顔も枕もものゝ本      岱水

  涼

川中や根木によろこぶすヾみ哉    芭蕉

月影にうごく夏木や葉の光り    可南

涼しさよ塀にまたがる竹の枝    長崎卯七

行燈をしいてとらするすヾみかな   探芝

崎風はすぐれて涼し五位の聲     智月

すヾしさをしれと杓の雫かな    備前兀峯

すヾしさや浮洲のうへのざこくらべ  去来

夕すヾみあぶなき石にのぼりけり   野坡

三か月の隠にてすヾむ哀かな     素堂

  題しらず

橘や定家机のありどころ       杉風

熨斗むくや礒菜すヾしき嶋がまへ   正秀

世の中や年貢畠のけしの花      里東

早乙女にかへてとりたる菜飯哉    嵐雪

木曽路にて
やまぶきも巴も出る田うへかな    許六

ひるがほや雨降たらぬ花の貌     智月

はえ山や人もすさめぬ生ぐるみ    北鯤

曉のめをさまさせよはすの花     乙州

雨乞の雨氣こはがるかり着哉     丈艸

螢みし雨の夕や水葵         仙花

一いきれ蝶もうろつくわか葉哉    楚舟

なりかゝる蝉がら落す李かな    みの残香

猪の牙にもげたる茄子かな    さが為有

團賣侍町のあつさかな        怒風

けうときは鷲の栖や雲の峯      祐甫

一枝はすげなき竹のわかば哉     仙花

竹の子や兒の歯ぐきのうつくしき   嵐雪

さるべき人、僕が酒をたしむ事を、かたく戒
め給ひて諾せしむ。しかるにある会にそれを
よく知て、あらきあはもりなど、名あるかぎ
りを取出て、あるじせられければ、汗をかき

改て酒に名のつくあつさ哉      利牛

ある人の別墅にいざなはれ、盡日打和て物が
たりし其夕つかた、外のかたをながめ出して
行雲をねてゐてみるや夏座敷     野坡



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川中や根木によろこぶすヾみ哉:この句は出羽の公羽の作品を誤って芭蕉の作品としたもの。
いもうと:「女」偏に「弟」と書く。この字は、姉が自分の同腹の妹を言うときの用字法だが、ここではそういう使い方をしていないようだが 。