芭蕉
處々に雉子の啼たつ 野坡
上のたよりにあがる米の直 芭蕉
藪越はなすあきのさびしき 野坡
娘を堅う人にあはせぬ 芭蕉
ことしは雨のふらぬ六月 芭蕉
ひたといひ出すお袋の事 芭蕉
終宵尼の持病を押へける 野坡
はつ雁に乘懸下地敷て見る 野坡
露を相手に居合ひとぬき 芭蕉
町衆のつらりと酔て花の陰 野坡
門で押るゝ壬生の念佛 芭蕉
たヾ居るまゝに肱わづらふ 野坡
方々に十夜の内のかねの音 芭蕉
桐の木高く月さゆる也 野坡
ひらふた金で表がへする 野坡
又このはるも済ぬ牢人 野坡
法印の湯治を送る花ざかり 芭蕉
なは手を下りて麥の出來 野坡
どの家も東の方に窓をあけ 野坡
魚に喰あくはまの雑水 芭蕉
未進の高のはてぬ算用 芭蕉
屏風の陰にみゆるくはし盆 芭蕉
嵐雪
あざみや苣に雀鮨もる 利牛
外を ざまくに圍ふ相撲場 嵐雪
細々と朔日ごろの宵の月 利牛
早稲も晩稲も相生に出る 野坡
泥染を長き流にのばすらん 野坡
隣から節々嫁を呼に來る 野坡
黒谷のくちは岡崎聖護院 利牛
五百のかけを二度に取けり 野坡
人のさわらぬ松Kむ也 利牛
飯の中なる芋をほる月 嵐雪
漸と雨降やみてあきの風 利牛
鶏頭みては又鼾かく 野坡
抱揚る子の小便をする 利牛
心みらるゝ箸のせんだく 嵐雪
ことしのくれは何も囉はぬ 野坡
此かいわいの小鳥皆よる 利牛
黍の穂は残らず風に吹倒れ 野坡
馬場の喧嘩の跡にすむ月 嵐雪
今に庄やのくちはほどけず 野坡
かした處のしれぬ細引 嵐雪
獨ある母をすゝめて花の陰 利牛
まだかびのこる正月の餅 野坡
孤屋
昼の水鶏のはしる溝川 芭蕉
上張を通さぬほどの雨降て 岱水
そつとのぞけば酒の最中 利牛
寝處に誰もねて居ぬ宵の月 芭蕉
晩の仕事の工夫するなり 岱水
僧都のもとへまづ文をやる 芭蕉
家のながれたあとを見に行 利牛
茶の買置をさげて賣出す 孤屋
かれし柳を今におしみて 岱水
雪の跡吹はがしたる朧月 孤屋
不届な隣と中のわるうなり 岱水
はつち坊主を上へあがらす 利牛
置わすれたるかねを尋ぬる 孤屋
客を送りて提る燭臺 岱水
堪忍ならぬ七夕の照り 利牛
名月のまに合せ度芋畑 芭蕉
すたすたいふて荷ふ落鮎 孤屋
山の根際の鉦かすか也 岱水
晒の上にひばり囀る 利牛
芭蕉
孤屋
岱水
利牛
各九句
利牛
岸のいばらの眞ツ白に咲 野坡
与力町よりむかふ西かぜ 利牛
竿竹に茶色の紬たぐりよせ 野坡
馬が離れてわめく人聲 孤屋
掃ば跡から檀ちる也 野坡
坊主になれどやはり仁平次 利牛
吹るゝ胼もつらき闇の夜 孤屋
十二三弁の衣裳の打そろひ 利牛
本堂はしる音は どろどろ 野坡
只奇麗さに口すゝぐ水 利牛
近江路のうらの詞を聞初て 野坡
天氣の相よ三か月の照 孤屋
椋の實落る屋ねくさる也 野坡
帯賣の戻り連立花ぐもり 孤屋
御影供ごろの人のそはつく 利牛
舞羽の糸も手につかず操 野坡
尚きのふより今日は大旱 利牛
くばり納豆を仕込廣庭 孤屋
藤ですげたる下駄の重たき 野坡
となりの裏の遠き井の本 利牛
くれの月横に負來る古柱 野坡
伐透す樅と檜のすれあひて 孤屋
赤い小宮はあたらしき内 利牛
濱迄は宿の男の荷をかゝえ 野坡
師走比丘尼の諷の寒さよ 孤屋
餅搗の臼を年々買かへて 利牛
天滿の状を又忘れけり 野坡
むく起にして参る觀音 利牛
十四五両のふりまはしする 孤屋
弦打颪海雲とる桶 孤屋
小昼のころの空静也 利牛
鍋の鑄かけを念入てみる 野坡
麥畑の替地に渡る傍じ杭 利牛
賣手もしらず頼政の筆 孤屋
又御局の古着いたヾく 利牛
一つくなりに鱈の雲膓 孤屋
錢さしに菰引ちぎる朝の月 野坡
入来る人に味噌豆を出す 孤屋
すぢかひに木綿袷の龍田川 野坡
御茶屋のみゆる宿の取つき 利牛
水菜に鯨まじる惣汁 野坡
花の内引越て居る樫原 利牛
尻輕にする返事聞よく 孤屋
入舟つヾく月の六月 利牛
尚云つのる詞からかひ 野坡
何年菩提しれぬ栃の木 孤屋
敷金に弓同心のあとを継 野坡
丸九十日隰をわづらふ 利牛
足なし碁盤よう借に来る 野坡
里離れ順礼引のぶらつきて 利牛
やはらかものを嫁の襟もと 孤屋
うんぢ果たる八専の空 利牛
丁寧に仙臺俵の口かヾり 孤屋
訴訟が済で土手になる筋 野坡
包で戻る鮭のやきもの 孤屋
定免を今年の風に欲ぼりて 野坡
暑病の殊土用をうるさがり 孤屋
幾月ぶりでこゆる逢坂 野坡
門建直す町の相談 孤屋
彼岸過一重の花の咲立て 野坡
三人ながらおもしろき哉 執筆
蓬莱に聞ばや伊勢の初便 芭蕉
春や祝ふ丹波の鹿も帰とて 京去来
刀さす供もつれたし今朝の春 膳所正秀
いそがしき春を雀のかきばかま 大坂洒堂
猶いきれ門徒坊主の水祝ひ 沾圃
目下にも中の詞や年の時宜 孤屋
初日影我莖立とつまればや 利牛
長松が親の名で来る御慶哉 野坡
梅一木つれづれ草の姿かな 露沾
窓のうちをみこみて
むめちるや糸の光の日の匂ひ 伊賀土芳
紅梅は娘すまする妻戸哉 杉風
おなごどもの七くさはやすをみて
とばしるも顔に匂へる薺哉 其角
七種や粧ひしかけて切刻み 野坡
洛よりの文のはしに
朧月一足づゝもわかれかな 去来
大はらや蝶の出てまふ朧月 僧丈艸
深川の会に
長閑さや寒の残りも三ケ一 利牛
十五日立や睦月の古手賣 大坂之道
猫の恋初手から鳴て哀也 野坡
鶯に薬をしへん聲の文 其角
うぐひすの聲に起行雀かな 桃隣
鶯の一聲も念を入にけり 利牛
傘に押わけみたる柳かな 芭蕉
土はこぶ籮にちり込椿かな 孤屋
枝長く伐らぬ習を椿かな 湖春
念入て冬からつぼむ椿かな 曲翠
鳥のねも絶ず家陰の赤椿 支考
うえのゝ花見にまかり侍しに、人々幕打
さはぎ、ものゝ音、小うたの聲さまざま
なりにける。かたはらの松かげをたのみて
四つごきのそろはぬ花見心哉 芭蕉
何がしのかうの殿の花見に侍りて
中下もそれ相應の花見かな 素龍
朝めしの湯を片膝や庭の花 孤屋
花はよも毛虫にならじ家櫻 嵐雪
やまざくらちるや小川の水車 大津あま智月
老僧も袈裟かづきたる花見哉 大坂之道
山櫻小川飛こすおなご哉 越前福井普全
折かへる櫻でふくや臺所 孤屋
鬼の子に餅を居るもひゐな哉 みの如行
麻の種毎年踏る桃の華 利牛
藪垣や馬の貌かくもゝの花 孤屋
瀧つぼに命打こむ小あゆ哉 嵯峨田夫為有
散残るつゝじの蘂や二三本 子珊
鳥の行やけのゝ隈や風の末 伊賀猿雖
氣相よき青葉の麥の嵐かな 仙華
旅行にて
法度場の垣より内はすみれ哉 野坡
此集いまだ半なる比、孤屋旅立事ありけ
るに品川までみ送りて
雲霞どこまで行もおなじ事 野坡
塩うをの裏ほす日也衣がへ 嵐雪
綿をぬく旅ねはせはし衣更 九節
雀よりやすき姿や衣がへ 雪芝
扇屋の暖簾白し衣がへ 利牛
卯の花やくらき柳の及ごし 芭蕉
旅行に
うの花に芦毛の馬の夜明哉 許六
髭宗祇池に蓮ある心かな 素堂
青雲や舟ながしやる子規 素龍
時鳥啼々風が雨になる 利牛
子規顔の出されぬ格子哉 野坡
柿寺に麥穂いやしや作どり みの荊口
麥跡の田植や遲き螢とき 許六
翁の旅行を川さきまで送りて
刈こみし麥の匂ひや宿の内 利牛
おなじ時に
麥畑や出ぬけても猶麥の中 野坡
おなじこゝろを
浦風やむらがる蝿のはなれぎは 岱水
五月雨や傘に付たる小人形 其角
さうぶ懸てみばやさつきの風の音 大坂洒堂
文もなく口上もなし粽五把 嵐雪
帷子のしたぬぎ懸る袷かな 素龍
枯柴に昼貌あつし足のまめ 斜嶺
二三番鶏は鳴どもあつさ哉 長崎魯町
するが地や花橘も茶の匂ひ 芭蕉
この句は島田よりの便に
五月雨の色やよど川大和川 桃隣
五月雨や露の葉にもる(やまごぼう) 嵐蘭
この句は嵐蘭より書てよこしぬ
五月雨や顔も枕もものゝ本 岱水
月影にうごく夏木や葉の光り 女可南
涼しさよ塀にまたがる竹の枝 長崎卯七
すヾしさをしれと杓の雫かな 備前兀峯
橘や定家机のありどころ 杉風
世の中や年貢畠のけしの花 里東
木曽路にて
やまぶきも巴も出る田うへかな 許六
螢みし雨の夕や水葵 仙花
なりかゝる蝉がら落す李かな みの残香
猪の牙にもげたる茄子かな さが為有
團賣侍町のあつさかな 怒風
けうときは鷲の栖や雲の峯 祐甫
さるべき人、僕が酒をたしむ事を、かたく戒
め給ひて諾せしむ。しかるにある会にそれを
よく知て、あらきあはもりなど、名あるかぎ
りを取出て、あるじせられければ、汗をかき
て
改て酒に名のつくあつさ哉 利牛
ある人の別墅にいざなはれ、盡日打和て物が
たりし其夕つかた、外のかたをながめ出して
行雲をねてゐてみるや夏座敷 野坡