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此木戸や錠のさゝれて冬の月

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此木戸や錠のさゝれて冬の月     其角

猿みの撰の時此句を書おくり、下を冬の月・霜の月置煩ひ侍るよしきこゆ*。然るに初は文字つまりて、柴ノ戸と読たり*。先師曰、角が冬・霜に煩ふべき句にもあらずとて、冬月ト入集せり*。其後大津より先師の文に、柴戸にあらず、此木戸也。かゝる秀逸は一句も大切なれば、たとへ出板に及とも、いそぎ改むべしと也*。凡兆曰、柴戸・此木戸させる勝劣なし。去來曰 、此月を柴の戸に寄て見侍れば、尋常の気色也。是を城門にうつして見侍バ、其風情あはれに物すごくいふばかりなし*。角が冬・霜に煩ひけるもことはり也。