芭蕉db

小春宛書簡

(元禄3年6月20日)

書簡集年表Who'sWho/basho


 何処持参の芳簡落手、御無事の旨、珍重に存じ候。類火の難、御のがれ候由、これまた仕合せ申し尽くしがたく候。残生いまだ漂白やまず、湖水のほとりに夏をいとひ候*。なほ、どち風に身をまかすべきやと、秋立つころを待ちかけ候*。且つ、両御句珍重。中にも「芹売の十銭」、生涯かろきほど、わが世間に似たれば、感慨少なからず候。口質他に越え候あひだ、いよいよ風情御心にかけらるべく候。
愚句、

京にても京なつかしや時鳥

暑気に痛み候て、早筆に及び候。
   季夏廿日

小春雅丈                       ばせを


 これも、『幻住庵記』執筆中に、金沢の門人小春に宛てた書簡。小春の手紙への返事だが、小春の手紙を持参したのは何処<かしょ>であった。何処は、小春と同業の薬種商人同士であったから、たまたま金沢で商売上小春に会ったとき、この書簡をあずかってきたのであろう。芭蕉47歳。