元禄七年の夏、はせを翁の別を見送
りて
麥ぬかに餅屋の見世の別かな 荷兮
許六が木曽路におもむく時
旅人のこゝろにも似よ椎の花 芭蕉
洛の維然が宅より故郷に帰る時
鼠ども出立の芋をこかしけり 丈草
鮎の子のしら魚送る別哉 芭蕉
甲斐のみのぶに詣ける時
宇都の山辺にかゝりて
年よりて牛に乗りけり蔦の路 木節
出羽の國におもむく時
みちのくのさかひを過て
そのかみは谷地なりけらし小夜碪 公羽
くま野路
くるしさも茶にはかつへぬ盆の旅 曾良
囘國の心ざしも、漸々伊勢のくにゝいたりて
文臺の扇ひらけば秋凉し 亡人呂丸
我蒲團いたヾく旅の寒かな 沾圃
常陸の國あしあらひといふ所に行暮て、やどり
求んとせしに、その夜はさる事ありとて宿をか
さヾりければ、一夜別時の軒の下にかヾまりふ
して
縁に寐る情や梅に小豆粥 支考
元禄三年の冬、粟津の草庵より武江におもむくと
て、嶋田の驛塚本が家にいたりて
宿かりて名をなのらするしぐれかな 芭蕉
續猿蓑は、芭蕉翁の一派の書也。何人の撰といふ事をしらず。翁遷化の後、伊賀上野、翁の兄松尾なにがしの許にあり。某懇望年を經て、漸今歳の春本書をあたえ、世に廣むる事をゆるし給へり。書中或は墨けし、あるひは書入等のあほく侍るは、草稿の書なればなり。一字をかえず、一行をあらためず、その書其手跡を以て、直に板行をなす物也。
元禄十一寅 五月吉日