續猿蓑

巻之下

旅之部


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送 別 留 別


  送 別

元禄七年の夏、はせを翁の別を見送
りて
麥ぬかに餅屋の見世の別かな     荷兮

別るゝや柿喰ひながら坂の上     維然

許六が木曽路におもむく時
旅人のこゝろにも似よ椎の花     芭蕉

  留 別

洛の維然が宅より故郷に帰る時
鼠ども出立の芋をこかしけり     丈草

鮎の子のしら魚送る別哉       芭蕉

甲斐のみのぶに詣ける時
宇都の山辺にかゝりて
年よりて牛に乗りけり蔦の路     木節

稲づまや浮世をめぐる鈴鹿山     越人

にべもなくつゐたつ蝉や旅の宿    野徑

出羽の國におもむく時
みちのくのさかひを過て
そのかみは谷地なりけらし小夜碪   公羽

十團子も小つぶになりぬ秋の風    許六

大名の寐間にもねたる夜寒哉     仝

くま野路
くるしさも茶にはかつへぬ盆の旅   曾良

つばくらは土で家する木曽路哉    猿雖

明ぼのはたちばなくらし旅姿     我峯

煎りつけて砂路あつし原の馬     史邦

囘國の心ざしも、漸々伊勢のくにゝいたりて
文臺の扇ひらけば秋凉し      亡人呂丸

我蒲團いたヾく旅の寒かな      沾圃

常陸の國あしあらひといふ所に行暮て、やどり
求んとせしに、その夜はさる事ありとて宿をか
さヾりければ、一夜別時の軒の下にかヾまりふ
して
縁に寐る情や梅に小豆粥       支考

はつ瓜や道にわづらふ枕もと     仝

元禄三年の冬、粟津の草庵より武江におもむくと
て、嶋田の驛塚本が家にいたりて
宿かりて名をなのらするしぐれかな  芭蕉


續猿蓑は、芭蕉翁の一派の書也。何人の撰といふ事をしらず。翁遷化の後、伊賀上野、翁の兄松尾なにがしの許にあり。某懇望年を經て、漸今歳の春本書をあたえ、世に廣むる事をゆるし給へり。書中或は墨けし、あるひは書入等のあほく侍るは、草稿の書なればなり。一字をかえず、一行をあらためず、その書其手跡を以て、直に板行をなす物也。

  元禄十一寅  五月吉日

ゐつゝ屋     庄兵衛書 勝重


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