蜀魄啼ぬ夜しろし朝熊山 支考
淀よりも勢田になけかし子規
此句は石山の麓にて、順礼の吟じて通りけ
るとや
郭公かさいの森や中やどり 沾圃
橙や日にこがれたる夏木立 闇指
園中 二句
此中の古木はいづれ柿の花 此筋
年切の老木も柿の若葉哉 千川
題山家之百合
しら雲やかきねを渡る百合花 支考
冷汁はひえすましたり杜若 沾圃
手のとヾく水際うれし杜若 イガ宇多都
夏菊や茄子の花は先へさく 拙候
はせを庵の即興
昼がほや日はくもれども花盛 沾圃
夕顔や酔てはほ出す窓の穴 芭蕉
夕がほや裸でおきて夜半過 亡人嵐蘭
蓮の葉や心もとなき水離れ 白雪
客あるじ共に蓮の蝿おはん 良品
朝露によごれて凉し瓜の土 芭蕉
京入や鳥羽の田植の帰る中 長崎卯七
里の子が燕握る早苗かな 支考
涼しさや竹握り行藪づたひ 半残
無菓花や廣葉にむかふ夕涼 維然
深川の庵に宿して
ばせを葉や風なきうちの朝凉 史邦
石ぶしや裏門明て夕凉み 長崎牡年
漫興 三句
腰かけて中に凉しき階子哉 洒堂
はせを翁を茅屋にまねきて
凉風も出來した壁のこはれ哉 游刀
黙禮にこまる凉みや石の上 正秀
職人の帷子きたる夕すヾみ 土芳
李盛る見世のほこりの暑哉 万乎
藪醫者のいさめ申されしに答へ侍る
実にもとは請て寐冷の暑かな 正秀
煤さがる日盛あつし臺所 恕風
茨ゆふ垣もしまらぬ暑かな 尾張素覧
草の戸や暑を月に取かへす 我峯
筍にぬはるゝ岸の崩かな 可誠
若竹や烟のいづる庫裏の窓 曲翠
しら鷺や青くもならず黴雨の中 出羽不玉
さみだれや蠶煩ふ桑の畑 芭蕉
夕立にさし合けり日傘 拙候
白雨や蓮の葉たゝく池の芦 苔蘇
ゆふ立に傘かる家やま一町 圃水
白雨や中戻りして蝉の聲 正秀
森の蝉凉しき聲やあつき聲 乙州
蝉啼やぬの織る窓の暮時分 暁鳥
籠の目や潮こぼるゝはつ鰹 葉拾
昼寐して手の動やむ團かな 杉風
夏痩もねがひの中のひとつなり イセ如眞
川狩にいでゝ
じか焼や麥からくべて柳鮠 文鳥
せばきところに老母をやしなひて
魚あぶる幸もあれ澁うちは 馬見
梅むきや笟かたぶく日の面 望翠
澤瀉や道付かゆる雨のあと 野童
蝸牛つの引藤のそよぎかな 水鴎
晋の淵明をうらやむ
窓形に昼寐の臺や簟 芭蕉
貧僧のくるしみ、冬の寒さはふせぐよすが
なきに、夏日の納凉は扇一本にして世上に
交る
帷子のねがひはやすし錢五百 支考