續猿蓑

巻之下

夏之部


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郭 公  早 苗 納 涼 盛 夏 竹の子 五月雨  雑 夏


   郭 公

曉の雹をさそふやほとゝぎす     其角

ほとゝぎす啼や湖水のさゝ濁     丈草

しら濱や何を木陰にほとゝぎす    曾良

蜀魄啼ぬ夜しろし朝熊山       支考

鳴瀧の名にやせりあふほとゝぎす   如雪

燕の居なじむそらやほとゝぎす    芦本

淀よりも勢田になけかし子規
此句は石山の麓にて、順礼の吟じて通りけ
るとや

郭公かさいの森や中やどり      沾圃

   附 草花

橙や日にこがれたる夏木立      闇指

里々の姿かはりぬなつ木だち     野萩

園中 二句
此中の古木はいづれ柿の花      此筋

年切の老木も柿の若葉哉       千川

姫百合や上よりさがる蜘蛛の糸    素龍

題山家之百合
しら雲やかきねを渡る百合花     支考

山もえにのがれて咲やかきつばた   尾頭

冷汁はひえすましたり杜若      沾圃

手のとヾく水際うれし杜若    イガ宇多都

夏菊や茄子の花は先へさく      拙候

はせを庵の即興
昼がほや日はくもれども花盛     沾圃

夕顔や酔てはほ出す窓の穴      芭蕉

夕がほや裸でおきて夜半過     亡人嵐蘭

藻の花をちヾみ寄たる入江哉     残香

蘭の花にひたひた水の濁り哉     此筋

蓮の葉や心もとなき水離れ      白雪

客あるじ共に蓮の蝿おはん      良品

  

朝露によごれて凉し瓜の土      芭蕉

姫ふりや袖に入ても重からず     至曉

  ぼ た ん

麁相なる膳は出されぬ牡丹哉     風弦

  早 苗

京入や鳥羽の田植の帰る中     長崎卯七

早乙女に結んでやらん笠の紐     闇指

ふとる身の植おくれたる早苗哉    魚日

田植哥まてなる顔の諷ひ出し     重行

一田づゝ行めぐりてや水の音     北枝

里の子が燕握る早苗かな       支考

  

蚊遣火の烟にそるゝほたるかな    許六

三日月に草の螢は明にけり      野萩

  納 涼

涼しさや竹握り行藪づたひ      半残

無菓花や廣葉にむかふ夕涼      維然

深川の庵に宿して
ばせを葉や風なきうちの朝凉     史邦

凉しさや駕籠を出ての繩手みち    望翠

石ぶしや裏門明て夕凉み      長崎牡年

漫興 三句
腰かけて中に凉しき階子哉      洒堂

凉しさや縁より足をぶらさげる    支考

生醉をねぢすくめたる凉かな     雪芝

はせを翁を茅屋にまねきて
凉風も出來した壁のこはれ哉     游刀

いそがしき中をぬけたる凉かな    仝

立ありく人にまぎれてすヾみかな   去来

黙禮にこまる凉みや石の上      正秀

職人の帷子きたる夕すヾみ      土芳

凉しさや一重羽織の風だまり     我眉

夜凉やむかひの見世は月がさす    黒圃

  盛 夏

かたばみや照りかたまりし庭の隅   野萩

李盛る見世のほこりの暑哉      万乎

藪醫者のいさめ申されしに答へ侍る
実にもとは請て寐冷の暑かな     正秀

取葺の内のあつさや棒つかひ     乙州

煤さがる日盛あつし臺所       恕風

茨ゆふ垣もしまらぬ暑かな     尾張素覧

草の戸や暑を月に取かへす      我峯

あつき日や扇をかざす手のほそり   印苔

積あげて暑さいやます疊かな     卓袋

粘になる蚫も夜のあつさかな     里東

立寄ればむつとかぢやの暑かな    沾圃

  竹 の 子

筍にぬはるゝ岸の崩かな       可誠

若竹や烟のいづる庫裏の窓      曲翠

  五 月 雨

しら鷺や青くもならず黴雨の中   出羽不玉

さみだれや蠶煩ふ桑の畑       芭蕉

五月雨や踵よごれぬ磯づたひ     沾圃

夕立にさし合けり日傘        拙候

白雨や蓮の葉たゝく池の芦      苔蘇

夕だちやちらしかけたる竹の皮    暁鳥

ゆふ立に傘かる家やま一町      圃水

  

白雨や中戻りして蝉の聲       正秀

きつと來て啼て去りけり蝉のこゑ   胡故

森の蝉凉しき聲やあつき聲      乙州

蝉啼やぬの織る窓の暮時分      暁鳥

  か つ を

籠の目や潮こぼるゝはつ鰹      葉拾

  雑 夏

昼寐して手の動やむ團かな      杉風

虫の喰ふ夏菜とぼしや寺の畑     荊口

夏痩もねがひの中のひとつなり    イセ如眞

川狩にいでゝ
じか焼や麥からくべて柳鮠      文鳥

異草に我がちがほや園の紫蘇     蔦雫

夕闇はほたるもしるや酒ばやし    水鴎

せばきところに老母をやしなひて
魚あぶる幸もあれ澁うちは      馬見

梅むきや笟かたぶく日の面         望翠

澤瀉や道付かゆる雨のあと      野童

蝸牛つの引藤のそよぎかな      水鴎

晋の淵明をうらやむ
窓形に昼寐の臺や簟         芭蕉

粘ごはな帷子かぶるひるねかな    維然

貧僧のくるしみ、冬の寒さはふせぐよすが
なきに、夏日の納凉は扇一本にして世上に
交る
帷子のねがひはやすし錢五百     支考


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