よしのにて
これはこれはとばかり花の芳野山 貞室
暮淋し花の後の鬼瓦 友五
何事ぞ花みる人の長刀 去来
花の山常折くぶる枝もなし 一井
見あげしがふもとに成ぬ花の瀧 津島俊似
冷汁に散てもよしや花の陰 胡及
柴舟の花咲にけり宵の雨 津島卜枝
おるときになりて逃けり花の枝 岐阜鴎歩
あらけなや風車賣花のとき 薄芝
花にきてうつくしく成心哉 たつ
獨来て友選びけり花のやま 冬松
首出して岡の花見よ蚫とり 荷兮
酒のみ居たる人の繪に
月花もなくて酒のむひとり哉 芭蕉
ある人の山家にいたりて
橿の木のはなにかまはぬすがた哉 同
ほとゝぎすを飼をくものに求得て放やるときに
鳥篭の憂目見つらん郭公 季吟
おひし子の口まねするや時鳥 津島松下
跡や先気のつく野邊の郭公 重五
ある人のもとにて発句せよと有ければ
ほとゝぎすはゞかりもなき烏かな 鼠弾
蚊屋臭き寝覚うつゝや時鳥 一髪
淀にて
ほとゝぎす十日もはやき夜舟哉 風泉
嬉しさや寝入らぬ先のほとゝぎす 岐阜杏雨
あぶなしや今起て聞郭公 傘下
馬と馬よばりあひけり郭公 鈍可
たゞありあけの月ぞのこれると吟じられ
しに
哥がるたにくき人かなほとゝぎす 大津智月
かるがると笹のうへゆく月夜哉 十二歳梅舌
けうとさに少脇むく月夜哉 昌碧
屋わたりの宵はさびしや月の影 津島市柳
峠迄硯抱て月見かな 任也
名月や鼓の聲と犬の声 二水
名月の心いそぎに
むつかしと月を見る日は火も焼かじ 荷兮
十三夜
影ふた夜たらぬ程見る月夜哉 杉風
朔日
暮いかに月の氣もなし海の果 荷兮
二日
見る人もたしなき月の夕かな 同
三日
何事の見たてにも似ず三かの月 芭蕉
四日
夕月夜あんどんけしてしばしみむ 卜枝
五日
何日とも見さだめがたや宵の月 伊豫一泉
六日
銀川見習ふ比や月のそら 岡崎鶴聲
七日
能ほどにはなして歸る月夜哉 岐阜一髪
大津にて
雪の日や船頭どのゝ顔の色 其角
竹の雪落て夜るなく雀かな 塵交
かさなるや雪のある山只の山 京加生
車道雪なき冬のあした哉 加賀小春
雪降て馬屋にはいる雀かな 鳧仙
夜の雪おとさぬやうに枝折らん 岐阜除風
雪の朝から鮭わくる聲高し 多文
雪の暮猶さやけしや鷹の声 桂夕
はつ雪や先草履にて隣まで 路通
はかられじ雪の見所有り所 野水