S33
兄弟のかほ見るやミや時鳥 去來去來曰、是句ハ五月廿八日夜、曾我兄弟の互に貌見合ける比、時鳥などもうちなきけんかしと*、源氏の村雨の軒端にたゝずび給ひしを、紫式部がおもひやりたるおもむきをかりて*、一句を作 れり。先師曰、曾我との原の事とハきゝながら、一句いまだ謂おほせず*。其角が評も同前なりと、深川より評有。許六曰、此句ハ心餘りて詞たらず。去來曰、心餘りて詞不足といハんハはゞかり有。たゞ謂不應也*。丈草曰、今の作者ハさかしくかけ廻りぬれバ、是等ハ合點の内成べしと、共に笑ひけり*。
是句ハ五月廿八日夜、曾我兄弟の互に貌見合ける比、時鳥などもうちなきけんかしと
:曾我兄弟の十郎祐成<と
源氏の村雨の軒端にたゝずび給ひしを、紫式部がおもひやりたるおもむきをかりて:「亡き人を
先師曰、曾我との原の事とハきゝながら、一句いまだ謂おほせず:芭蕉の評。曾我兄弟の故事とはいえ表現し切れていませんね。其角も同じことを言っていました、と江戸から書簡で感想を寄せてきた。
去來曰、心餘りて詞不足といハんハはゞかり有。たゞ謂不應也 :許六が「心餘りて詞不足(感情が先走って言葉が着いて来ない)」と言ったというのは畏れ多くもかたじけない。そうではなくて、私は言いおおせていないだけだと思う。
丈草曰、今の作者ハさかしくかけ廻りぬれバ、是等ハ合點の内成べしと、共に笑ひけり:丈草に言わせれば、いまどきの俳人たちはせわしく走り回ってばかりいるから、この位の言葉不足はどうってことないよと言って笑い合った。