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つたの葉―――――――― 尾張の句此ほ句ハ忘れたり。つたの葉の、谷風に一すじ峯迄裏吹きかへさるゝと云句なるよし。予先師に此句を語る。先師曰、ほ句ハかくの如く、くまぐま迄謂つくす物にあらずト也*。支考傍に聞て大ひに感驚し、初てほ句トいふ物をしり侍ると、この比物語り有り*。予ハ其時なをざりに聞なしけるにや、あとかたもなくうち忘れ侍る。いと本意なし。
つたの葉―――:これは尾張の門人=荷兮の句「蔦の葉や残らず動く秋の風」で『続猿蓑』所収。
先師曰、ほ句ハかくの如く、くまぐま迄謂つくす物にあらずト也 :芭蕉はこの句について、發句というものはこういうふうに微に入り細を穿って言い尽くしてはいけない、と言ったという。蔦の葉といえばうらじろで、秋風と葉の裏返しといういうのは言わなくても分かる定型だったのである。
この比物語り有り:支考が芭蕉の発句論を記憶していて最近書物に書いたというが、自分はまるっきり忘れていた。「残念無念だ」と言いながら、この一文には、この話、支考の作り話ではないかという野次も入っているようだが??。