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猪のねに行かたや明の月

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猪のねに行かたや明の月        去來

此句を窺ふ時、先師暫く吟て兎角をのたまハず*。予思ひ誤るハ、先師といへども歸り待よご引ころの氣色しり給はずやと、しかじかのよしを申*。先師曰、そのおもしろき處 ハ、古人もよく知れバ、帰るとて野べより山へ入鹿の跡吹おくる荻の上風とハよめり*。和哥優美の上にさへ、かく迄かけり作したるを、俳諧自由の上にたゞ尋常の氣色を作せんハ、手柄なかるべし。一句おもしろけれバ暫く案じぬれど、兎角詮なかるべしと也*。其後おもふに、此句ハ、時鳥鳴きつるかたといへる後京極の和哥の同案にて、彌々手柄なき句也*