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切れたるゆめハまことかのみのあと 其角 去來曰、其角ハ誠に作者にて侍る。わづかにのみの喰つきたる事、たれかかくハ謂つくさん*。先師曰、しかり、かれハ定家の卿也*。さしてもなき事をことごとしくいひつらね侍るときこへし。評詳に似たり*。
切れたるゆめハまことかのみのあと 其角
去來曰、其角ハ誠に作者にて侍る。わづかにのみの喰つきたる事、たれかかくハ謂つくさん*。先師曰、しかり、かれハ定家の卿也*。さしてもなき事をことごとしくいひつらね侍るときこへし。評詳に似たり*。
切れたるゆめハまことかのみのあと:<きられたる・・>。
わづかにのみの喰つきたる事、たれかかくハ謂つくさん:蚤に食われて赤くなった程度をもって、夢の中で切られた事の証拠にするという。其角は大げさの天才であった。
先師曰、しかり、かれハ定家の卿也:其角は藤原定家ですよ。ちっぽけなことを大変な詩にしてしまう才覚がありますから。褒めているばかりではない芭蕉の其角評。定家の和歌では、「見渡せば花も紅葉も無かりけり浦の苫家の秋の夕暮」などが典型的。つまり何も無い世界をみごとに詩に創りあげている。
評詳に似たり: 井筒屋初版本では「評詳なるににたり」