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行ずして見五湖いりがきの音をきく

   なき人の小袖も今や土用ぼし

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   行ずして見五湖いりがきの音をきく*     素堂
   
なき人の小袖も今や土用ぼし          ばせを

素堂師の句は、深川ばせを庵におくり給ふ句也。先師の句は、予妹千子が身まかりける比、みのゝ國よりおくり給ふ句也*。共にその事をいとなむたゞ中に來れり。
この比、『古蔵集』を見るに、先師の事どもかきちらしたるかたはし、素師の句をあげ、いりがきのたゞ中にきたる事を以て、名人・達人と名誉がられたり*。是をもて名人といはゞ、そのそしらるゝ先師の句もかくのごとし。皆人のしりたる事なり。それのみならず、世話にも、人ごといはゞむしろしけといへり*。一気の感通、自然の妙応、かゝる事も有るものとしらるべし*。誠に痴人、面前夢を説くべからずとなり*