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まんぢうで人を尋ねよ山ざくら
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- まんぢうで人を尋ねよ山ざくら 其角
許六曰
、是ハなぞといふ句也*。去來曰、是ハなぞにもせよ、謂不應と云ふ句也*。たとへバ灯燈で人を尋よといへるハ直に灯燈もてたづねよ也*。是ハ饅頭をとらせんほどに、人をたづねてこよと謂へる事を、我一人合點したる句也*。むかし聞句といふ物あり。それハ句の切様、或ハてにはのあやを以て聞ゆる句也。此句ハ其類にもあらず*。
- 許六曰 、是ハなぞといふ句也:許六が、この句は謎の多い句だね、と言った。
- 去來曰、是ハなぞにもせよ、謂不應と云ふ句也:私は、謎かもしれないが、言いおおせずという句だろうね、と答えた。
- たとへバ灯燈で人を尋よといへるハ直に灯燈もてたづねよ也:たとえば、「灯篭で人を訪ねろ」と言ったらそれは「灯篭を持って人を訪ねろ」ということだ。
- 是ハ饅頭をとらせんほどに、人をたづねてこよと謂へる事を、我一人合點したる句也:これは、饅頭をほうびにやるから、訪ねて来いと、作者一人が勝手に喜んでいる句だよ。去来の解釈は、「山桜が咲いた。それを一緒に見たいから、なんなら饅頭持って拙宅に遊びに来てくれないか」だが、これで十分と言えないところにこの句の「謎」がある。
- むかし聞句といふ物あり。それハ句の切様、或ハてにはのあやを以て聞ゆる句也。此句ハ其類にもあらず
:昔、「聞き句」と言うものがあって、句の切り方、「て、に、は」の微妙な使い方などを学ぶ句なのだが、この其角の句はそれでもなさそうだね。