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唐黍にかげろふ軒や玉まつり
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唐黍にかげろふ軒や玉まつり 洒堂
洒堂曰、路通曰、唐黍
ハ粟にも稗にもふるべし。ほ句となしがたしト也*。去来曰、通いまだ句の花實をしらざる故也*。此句ハ軒の草葉の火影のもれたる賎の玉祭を賦たるにて、一句の實こゝにあり*。其草葉ハ唐黍にても粟稗にても、其場に叶たらん物を用ゆべし。是ハ一句の花也。實ハ魂祭にて動くベからず。動けバ外の事也*。花ハいくつも有べし。その内雅なる物を撰び用ゆるのミ。
- 洒堂曰、路通曰、唐黍ハ粟にも稗にもふるべし。ほ句となしがたしト也:
洒堂は「路通が、この句のトウキビはアワにもヒエにも置き換えられる。だから発句にはならない、と言われた」と言ってきた。
- 去来曰、通いまだ句の花實をしらざる故也:路通はまだ句の花や実についてわかっていないからだよ、と私は言った。
- 此句ハ軒の草葉の火影のもれたる賎の玉祭を賦たるにて、一句の實こゝにあり
:<このくはのきのくさばのほかげのもれたるしずのたままつりをふしたるにて、いっくのじつここにあり>。この句は、軒の草葉から火影がもれてくる貧しい家の盆の情景を詠んだもので、一句の実はこの火影や玉祭にあるのだ。
- 是ハ一句の花也。實ハ魂祭にて動くベからず。動けバ外の事也
:唐黍はこの句の花ではあるが、実は玉祭だからこれは「動い」てはダメ。そうでなければ花は唐黍が稗でも粟でもかまわないのだ。きれいなものを持ってくれば何でもよい。