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鞍坪に小坊主のるや大根引
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- 鞍坪に小坊主のるや大根引 ばせを
蘭國曰、此句いかなる處か面白き*。去來曰、吾子今マ解しがたからん。只圖してしらるべし*。たとへバ花を圖するに、奇山幽谷霊社古寺禁闕によらバ、その圖よからん。よきがゆへに古來おほし*。如此類ハ圖の悪敷にハあらず。不珍なれバ取はやさず*。又圖となしてかたちこのましからぬものあらん。此等元より圖あしとて用ひられず。今珍らしく雅ナル圖アラバ、此を畫となしてもよからん。句となしてもよからん*。されバ大根引の傍に草はむ馬の首うちさげたらん、鞍坪に小坊主のちよつこりと乗りたる圖あらば、古からんや、拙なからんや。察しらるべし*。國が兄何某、却て國より感驚ス。かれハ俳諧をしらずといへども、畫を能するゆへ也*。圖師尚景が子也。
- 蘭國曰、此句いかなる處か面白き:嵐国がこの句のどこが面白いのか教えて欲しいといった。嵐国については片山尚景の子供だということが分かるが、おそらく少年だろう。
- 去來曰、吾子今マ解しがたからん。只圖してしらるべし:<きょらいいわく、ごしいまかいしがたからん。ただずして・・>。君には未だ分からないだろうね。だが、これを絵にたとえてみると分かると思うよ、と去来は答えた。
- たとへバ花を圖するに、奇山幽谷霊社古寺禁闕によらバ、その圖よからん。よきがゆへに古來おほし:<・・、きざんゆうこくれいしゃこじきんけつによらば、・・・>。たとえば花の絵を描くというときに、奇山・幽谷・霊験あらたかな神社や古寺、あるいは宮廷などに咲く花なら、その絵はきっといいはずだ。いいから古来描かれてきたんだ。「禁闕<きんけつ>」は皇居、宮廷の門、禁門などのこと。
- 如此類ハ圖の悪敷にハあらず。不珍なれバ取はやさず:<かくのごときたぐいはずのあしきにはあらず、ふちんなればとりはやさず>。こういうような絵は今ではあまり描かれないが、それは景観が悪いからじゃない、もう珍しくないからだ。
- 今珍らしく雅ナル圖アラバ、此を畫となしてもよからん。句となしてもよからん:今、珍しくて、みやびな景観があれば、これを絵に描いてもいいし、句にしてもいいよね。
- されバ大根引の傍に草はむ馬の首うちさげたらん、鞍坪に小坊主のちよつこりと乗りたる圖あらば、古からんや、拙なからんや。察しらるべし:そこで、大根を収穫しているお百姓さんの傍で馬が一頭首を下げて草を食べている、その鞍坪に子供がちょっこりと乗っかっているなんて情景があったら、これは古くからあるもので珍しくもないというの、それともくだらんというの?考えてごらん!!
- 國が兄何某、却て國より感驚ス。かれハ俳諧をしらずといへども、畫を能するゆへ也:君の国のお兄さんは、この句を読んで感動したと言ってきたよ。彼は俳諧はやらないけれど絵をやるからね。よく句の情景が思い浮かぶからなんだよ。なお、この兄弟は水墨画の巨匠片山尚景の子供である。