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取れずバ名もなかるらん紅葉鮒
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- 取れずバ名もなかるらん紅葉鮒 玄梅
許六曰、是を説経はねと云。かんぜん者ハなかりけりト也*。又曰、或人路上にて人に逢て、上へや行べし、下へや行べしと路ヲ問るが如し。てにをはあハず*。去來曰、上へや行べしと謂ハ、上ハ疑ひ下は決し語路不通。疑ひて決するといふてにはにもあらず*。此句ハ上に疑ひ有りて下をはねたり。又らんはらしにかよふ。はねたる事くるしからじ*。六曰
、穴勝にはねたるをいハず。惣體てにをはあしきトなり*。
- 許六曰、是を説経はねと云。かんぜん者ハなかりけりト也
:許六が、「なかるらん」のような言葉のはね方を説教跳ねという、「感ぜぬ者」(感じない人、の意。)というのを「感ぜん者」というような場合だね」と言った。
- 又曰、或人路上にて人に逢て、上へや行べし、下へや行べしと路ヲ問るが如し。てにをはあハず:また許六は、ある人が道を訊くのに『上へや行べし、下へや行べし』(「や」は係結びで正しくは上へや行くべき、下へや行くべきというと許六は言いたいらしい)というような場合で、これで「はてにをは」がまるでなっていないよ、とも言った。
- 去來曰、上へや行べしと謂ハ、上ハ疑ひ下は決し語路不通。疑ひて決するといふてにはにもあらず:「上へや」の「や」は疑問で、「行くべし」は決定なので、これは語呂が合わない。自問して自答するというのでもなさそうだし、去来は言った。去来のこの発言は間違っている。
- 此句ハ上に疑ひ有りて下をはねたり。又らんはらしにかよふ。はねたる事くるしからじ:この句は。最初に「取られずば」と疑い、次に「名もなかるらし」とはねたのであって、文法的に間違ってはいないよ、と去来は言った。
- 六曰 、穴勝にはねたるをいハず。惣體てにをはあしきトなり:許六は、私が言っているのは「名もなかるらん」とはねたことだけを言っているのではなくて、全体的文法的におかしいといっているのだよ。