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時鳥帆裏になるや夕まぐれ
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- 時鳥帆裏になるや夕まぐれ 先放
初ハ下を明石潟と云り*。渡鳥集にあらたむ。可南曰、いかなるゆへにや。去來曰、時鳥帆裏に成るやと云にて景情足れり。是上に明石潟をもとむるハ心のねばり也*。可南曰、同集卯七の時鳥も明石也。いかゞ變り侍るや*。來曰、卯七句ハ明石といはねバ、すヾしけれと云本意たゝず*。ほ句ハ趣向を二つ三つ取かさぬる物にあらず。又下意を持た
セて作するハ各別也*。
- 初ハ下を明石潟と云り:初案は「時鳥帆裏になるや
明石潟」であったという。それを『渡鳥集』に入集するときに改めた。それを去来の愛妻可南が質問した。
- 去來曰、時鳥帆裏に成るやと云にて景情足れり。是上に明石潟をもとむるハ心のねばり也:「時鳥帆裏になるや」といえば情景の描写はもう十分でそれ以上は不要。それなのに更に歌枕で有名な明石潟を付けるのは執着心というものです。よく分かったような分からないような、少し強引な説明。
- 可南曰、同集卯七の時鳥も明石也。いかゞ變り侍るや:同じ『渡鳥集』に卯七の句があってそれは「時鳥当てた明石もずらしけり」(明石に来れば時鳥の声が聞けるだろうと思って折角来てみたら期待を外されてしまった)ですが、明石と時鳥がここでは一緒でもかまわないのですか。
- 來曰、卯七句ハ明石といはねバ、すヾしけれと云本意たゝず:これに対して私は、「卯七の句は明石といわなければならない明石と時鳥が主題だから仕方ないのです、と答えた。ここで本文が「すヾしけれ」とあるのは「ずらしけり」の転記ミス。
- ほ句ハ趣向を二つ三つ取かさぬる物にあらず。又下意を持た
セて作するハ各別也:この二句から言えるのは、第一に句は趣向を二三つと重ねてはいけないこと、第二にある意図を持って作る場合は格別であってこれに前記に限らない。