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卯の花に月毛の駒のよ明かな
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卯の花に月毛の駒のよ明かな 許六
去來曰、予此趣向有りキ。句ハ有明の花に乗込むといひて、月毛駒・芦毛馬は詞つまれり*。の字を入れバ口にたまれり。さめ馬ハ雅ならず。紅梅・さび月毛・川原毛、おもひめぐらして首尾セず。其後六が句を見て不才を嘆ず。實に畠山左衛門佐と云へば大名、山畠佐左衛門と云へバ一字をかえず庄屋也*。先師の句調ハずんバ舌頭に千轉せよと有しハ、こゝの事也*。
- 去來曰、予此趣向有りキ。句ハ有明の花に乗込むといひて、月毛駒・芦毛馬は詞つまれり:私にも、この許六の句と同じ発送の句がありました。それは「有明の花に乗込む」と上五七を決めたのですが、下五に行き詰った。「月毛駒」や「芦毛駒」では言葉が詰まってしまう。その後、さめ馬・紅梅・さび月毛・川原毛などと様々考えましたが行き詰ってしまいました。
- 其後六が句を見て不才を嘆ず。實に畠山左衛門佐と云へば大名、山畠佐左衛門と云へバ一字をかえず庄屋也:<そのごきょりくがくをみてふさいをたんず。じつにはたけやまさえもんのすけといえばだいみょう、やまばたけすけざえもんといえばいちじをかえずしょうやなり>。その後許六のこの句を見て自分の不才をしみじみ知りました。それこそ、畠山左衛門佐と云へば大名、山畠佐左衛門と云へバ一字をかえずに庄屋である、というわけです。
- 先師の句調ハずんバ舌頭に千轉せよと有しハ、こゝの事也:それこそ先師芭蕉の言われた「句調がうまくころがなかったら、舌の先で千回転がしてみよ」と言われたのはこの事だったかと気づかされましたよ。