『猿蓑』編集中の京都から膳所の水田正秀宛に書いた書簡。『猿蓑』編集が事のほか時間を要し、約束した期限に近江に行けないことの詫び状になっている。
愈々御無事、御老母様・御子達御無事被レ成二御座一候哉:<いよいよごぶじ、ごろうぼさま・おこたちごぶじにござなされそうろうや>と読む。
漸々ない方にほひうつくしく御とり込推察令レ存候:<いよいよないかた・・・おとりこみとすいさつぞんぜしめそうろう>と読む。「ない方」は家内または家業の意。この時期は膳所では茶摘みに忙しいので、それを推察してご多忙でしょうと見舞っているのである。
爰元わりなき集之内相談にて紛候而:<ここもと・・しゅうのうちそうだんにてまぎれそうろうて>と読む。「集」は『猿蓑』を指す。
其境下向之事遅々といたし、一入御懐布のみに存候:<ききょうげこうのことちちといたし、ひとしおおなつかしくのみにぞんじそうろう>と読む。芭蕉は、結局6月10日に大津の乙州亭に赴いた。
しぐれの鑓持句驚入:<しぐれのやりもちのくおどろきいり>と読む。鑓持ちの句については半残宛書簡参照。
乙州事愈御取持可レ被レ成候:<おとくにこといよいよおんとりもちなさるべくそうろう>と読む。乙州をお引き立てくださいますように、の意。
探子、如レ此候:<たんし、かくのごとくにそうろう>と読む。探子は、膳所の門人。