江戸から京都の去来に宛てた書簡。 歳旦吟を話題とした同一テーマの手紙三本の一。去来や史邦ら京都の門人たちに、「軽み」が理解され始めたことに満足している。御機嫌の書簡。
始早々預二貴墨、忝致二拝見一候:はじめ早々お手紙を下さりかたじけなく、の意。
愈御無事、玄端老御一家、別条無二御座一候哉:<いよいよぶじ、げんたんろうごいっか、べつじょうござなくそうろうや>。元端は去来の兄。
拙者折々ながら先無レ恙罷暮候:<せっさやおれおれながらまずつつがなくまかりくらしそうろう>と読む。私は、ぐたぐたしながらもまずは一応元気でやっています、の意。
三つ物御下し、則感吟、驚入申候: <みつものくだし、すなわちかんぎん、おどろきいりもうしそうろう>。この年の歳旦帳の三つ物を贈って来たことへの誉め言葉。
扨は去歳無二遠慮一棒をあて候も、能御請こたへ候にや:<さては、居さいえんりょなくぼうをあてそうろうも、よくおうけこたえそうろうにや>。去年、京都で皆さんを厳しく教育したのが奏功したのでしょうか、の意。
愚案手ざはりたがはず、当年扶桑第一と被レ存レ候:私の発案した作風(ここは「軽み」のこと)に違背せず、この三つ物の出来ばえは「日本一」と思います、の意 。
鳥も囀の脇、発句之釣合、句のにほひ、江東日暮之雲といらひつべう候か:<とりもさえずりのわき、ほっくのつりあい、くのにおい、こうとうじつぼのくもといらいびょうそうろうか>。「鳥も囀」は三つ物の脇句で、そのうまさは、杜甫の詩「春日憶二李白一」の詩にも匹敵するレベルにある、の意。
発句、長高、意味不レ少:<ほっく、たけたかく、いみすくなからず>。三つ物のそれぞれの發句も格調があって、味わいが深い、の意。
風景手よはく、まぎれ安所御座候而、慥に請取かね候:前便で来た句は、描写力が弱く、鑑賞が散漫になりやすく、しっかりとしたイメージが感得できません。その句は不明。
愚句、閉口:私は句を詠みません。ただしといって参考のためとて、下の名句を掲げているのだから、「閉口」ではないのだが。江戸俳壇に対する不満が裏にある。
下、笹伝ひと可レ有や:下の句「縁の先」を「笹伝ひ」としようかと迷っている、の意。 結局、このままで決定したのだが。