乙州上津之節、御細翰忝存候:<おとくにじょうしんのせつ、ごさいかんかたじけなくぞんじそうろう>と読む。この年ようやく乙州は金沢から大津に帰ってきたが、そのとき北枝からの書状を携行したのである。
其元大雪之由、一尺計は此方申請度候:<そこもとおおゆきのよし、いっしゃくばかりはこのほうもうしうけたくそうろう>と読む。雪の無い地域の人の呑気である。
此方年々事故、当春は致二非番一候:<このほうねんねんのことゆえ、とうしゅんはひばんいたしそうろう>と読む。毎年のことだから、私は今年は歳旦吟は止めにしました、の意。
たれせつくものも御座無、是まで年々の骨折さへくやしき事に覚候:誰も、私の歳旦吟を欲しいと言ってくる人も無いので、今まで毎年苦心して歳旦集を出版していたのは何のためだったのかと悔やまれさえ致します、の意。
貴様集之事、不埒成様に御おもひ候半と気の毒に存候:<きさましゅうのこと、ふらちなるようにおもいそうらはんときのどくにぞんじそうろう>と読む。ここに「集」とは北枝刊行の『卯辰集』のこと。その撰集が不出来であると芭蕉が評価したように思っているかもしれませんが、まことに申し訳ありません、の意。
心緒句空僧まで申達し候間、御内談可レ被レ成候:<しんちょくくくうまでもうしたっしそうろうあいだ、ごないだんなさるべくそうろう>と読む。私の真意は句空に伝えてあるので、彼から聞いて欲しい。
何とぞ暮春之初御上京候へと被レ存候:<なにとぞぼしゅんのはじめごじょうきょうそうらえとぞんぜられそうろう>と読む。3月には上京してください、の意。芭蕉は、この時点で春には京都へ移る所存であったことが分かる。
頃日寒気故、持病散散、神以気分重く御座候間、早々如レ此御座候:<けいじつかんきゆえ、じびょうさんざん、しんもってきぶんおもくござそうろうあいだ、そうそうかくのごとくにござそうろう>と読む。連日寒く、体調が悪いので、手紙は末筆のまま、このくらいで・・の意。
牧童へ可レ然御意得被レ成可レ被レ下候:<ぼくどうへしかるべくおこころえなされくださるべくそうろう>と読む。牧童によろしくお伝えください、の意。
尚尚風雅、段々便に承度候:<なおなおふうが、だんだんたよりにうけたまわりたくそうろう>。あなたの手紙でなりと作品を拝見したく思います、の意。