前便以来知足から頼まれていた江戸の他流派の俳諧師達の短冊の一部が出来上がり、それを送付したことの報せ。また、かねて伝えてあった上洛のことが不発に終ったが、来年は実行すると書いている。全体、知足への深い感謝の念がこめられているが、これからも『野ざらし紀行』の途次名古屋で、知足や如風に世話になったことが想像できる。
先日糀町何某殿御上り之節、短尺少進之レ候:<せんじつこうじまちなにがしどのおのぼりのせつ、たんざくすこしこれをしんじそうろう>と読む。糀町は麹町。知足の関係者がここにいたのであろう。そしてその人(何某)が上方に上るついでに依頼されていた短冊の一部を持参した、というのである。
拙者も当年上京可レ致候へ共、もはや寒気に移候故思ひ留り候:芭蕉は、前便でこの年(貞亨3年)上方に上ると書いていたが、何かとまぎれている間に時期を失したのである。
互に露命頼計に御座候:<たがいにろめいたよるばかりにござそうろう>と読む。私たちは、お互いはかない命でありますから、の意。だから是非来年は会いたいものだというのである。
御連衆、尤如風貴僧、可レ然御心得奉レ頼候:<ごれんじゅう、もっともじょふうきそう、しかるべくおこころえたのみたてまつりそうろう>と読む。御連衆は、鳴海の俳人達を指す。中でも如風や知足(知足は法名寂照として僧籍にあった)には、ことの他よろしく頼むというのである。
毎々申被レ出、於二拙者一過分至極奉レ存候:<まいまいもうしいだされ、せっしゃにおいてかぶんしごくにぞんじたてまつりそうろう>と読む。二人がお世話になったことを常々語って聞かせるものですから、私もうれしく思っております、の意。
重而委曲可レ得二御意一候:<かさねていきょくぎょいをうべくそうろう>と読む。重ねて、委細は、今度お会いしたときに申し上げたいと存じます、の意。