(別紙)
名古屋鳴海の蕉門の弟子下里知足から依頼された江戸俳人達の揮毫した短冊20枚の準備状況などを知らせた書簡。また、芭蕉庵の近くに住んでいる乞食僧侶二人が上京する際に面倒見てくれるよう依頼した書簡でもある.芭蕉が知足のために、他流派の宗匠の揮毫した短冊まで集めて知足宛に送ろうという並々ならぬサービスは、『野ざらし紀行』の旅の途次に知足に彼自身並々ならぬ世話になった恩返しの意も込めてのことなのであろう。
貴墨並短尺廿枚相届:<きぼくならびにたんざく20まいあいとどき>と読む。お手紙と短尺を受け取った、というのだが、ここに「短尺」は、知足が前便で江戸の俳人達の揮毫を希望してきたものであろう。
内々頃日者上京可レ致覚悟に御座候へ共:<ないないけいじつはじょうきょういたすべくかくごにござそうらえども>と読む。自分としてはこの頃上京したいと考えているのだが、色々と差し障りがあってなかなか思うに任せないというのである。実際芭蕉は、この年上京できなかった。
短尺大かた出来いたし候へ共:<たんざくおおかたしゅったいいたしそうらえども>と読む。短尺への揮毫は大方出来ましたが、の意。
爰元はかりそめにも出合遠方:爰元<ここもと>は、この場合芭蕉の住む江戸深川を指す。「かりそめにも」はちょっとの意。だからちょっと出合うにも深川は江戸から遠方であるので不便だというである。
其上人々ケ様之事共に取込罷有候故:<そのうえひとびとかようのことどもにとりこみまかりありそうろうゆえ>と読む。この揮毫のことで忙殺されてしまっているので、返事が遅くなってしまった。
是故少調兼候:<これゆえすこしととえかねそうろう>と読む。他流派の宗匠達の短冊を集めるのに少々手間がかかっているというのである。
追付相調候而登せ可レ申候:<おっつけあいととのえそうろうてのぼせもうすべくそうろう>と読む。おいおい集めてそちらに送りましょう、の意。
被レ懸二御意一、誠忝奉レ存候:<ぎょいにかけられ、まことにかたじけなくぞんじたてまつりそうろう>と読む。お心に懸けて頂きありがとう、の意。
此僧二人:二人の僧が芭蕉庵にいる、という。二人の僧とは、宗波と鉄道のことで、『知足齊日日記』に彼ら二人が鳴海の知足亭を訪れた記録がある。なお、この二人が、本状からは芭蕉庵にいるように書いてあるが、実際は近所に別に草庵を編んで住んでいたらしい。
長除(途)草臥可レ被レ申候間:<ちょうずくたびれもうさるべきそうろうあいだ>と読む。上の二人が修業のため上京するが、長い旅で疲れるであろうから、の意。だから、二三日逗留させて休息させて欲しいと繰り返し依頼している。
如風様御方に御とめ被レ成可レ被レ下候様に奉レ頼候:<じょうふうさまおんかたにおとめなされくださるべくそうろうようにたのみたてまつりそうろう>と読む。如風の寺に泊めてもらっても良いので、彼にその旨依頼してくれないかというのである。如風は鳴海の如意寺の住職で蕉門の弟子の一人。
大キウ和尚拝いたし度ねがいに御座候間:大キウ和尚に会ってお願いしたい用件もあるので、その事もよろしく頼むというのである。大キウ和尚は鳴海の長寿寺の住職らしいが詳細は不明。その用件も不明。