深川芭蕉庵から、久々に大垣の木因に宛てた現存する最後の書簡。木因から小帋一束が贈られてきたことへの謝辞である。 当時、紙の一束という単位は10帖を言い、1帖は48枚を単位とした。
ところで、ここに木因から贈られてきた紙は、木因が美濃の人なので美濃紙であろう。時期的に見て、芭蕉はこの紙を使って、『奥の細道』の創作にあたったのではないかと思われる。
御芳翰舟便慥に相達し、小帋一束被レ懸二御意一、遠方辱令レ存候:<ごほうかんふなびんたしかにあいたっし、こがみいっそくぎょいにかけられ、えんぽうかたじけなくぞんぜしめそうろう>と読む。御手紙と船便確かに到着し、小紙480枚遠方からお心遣いくだされ、有り難く厚くお礼申しあげます、の意。
御発句共御書付令レ感候:<おんほっくどもおかきつけかんぜしめそうろう>。同封の発句も御手紙もいたく感動致しました、の意。
愈御無為之旨、珍重此事に存候:<いよいよごぶいのむね、ちんちょうこのことにぞんじそうろう>と読む。益々お元気の事、喜ばしいことこれに過ぎるものがありません、の意。
三つ物例年之通可レ被レ成候よし、珍重存候:<みつものれいねんのとおりなさるべくそうろうよし、ちんちょうにぞんじそうろう>と読む。歳旦帖も例年のように出版された由、大変結構です、の意。
相替事無二御座一候間、早々:<あいかわることござなくそうろうあいだ、そうそう>。至って元気でやっております。末筆のまま。