徒然草(下)

第224段 陰陽師有宗入道、鎌倉より上りて、


 陰陽師有宗入道*、鎌倉より上りて、尋ねまうで来りしが、先づさし入りて*、「この庭のいた づらに広きこと、あさましく、あるべからぬ事なり。道を知る者は、植うる事を努む*。細道一つ残して、皆、畠に作り給へ」と諌め侍りき。

 まことに、少しの地をもいたづらに置かんことは、益なき事なり。食ふ物・薬種など植ゑ置くべし。

陰陽師有宗入道:陰陽師安部有宗。彼が、鎌倉から兼好法師の屋敷にやってきたのである。 安部有宗は晴明の10代目の子孫。

先づさし入りて:屋敷の中に入ってきて、。 何処の屋敷かは不明。

道を知る者は、植うる事を努む:道理をわきまえている者なら、こういう空き地を作らずに植物を植えるものだ。


 「道を知る者は、植うる事を努む」「食ふ物・薬種など植ゑ置くべし」耕作放棄地や 農水省の減反政策を知ったら、この安部有宗は、なんと言ったことだろう。


 おんみょうじありむねにゅうどう、かまくらよりのぼりて、たずねもうできたりしが、まずさしいりて、「このにわのいたずらにひろきこと、あさましく、あるべからぬことなり。みちをしるものは、ううることをつとむ。ほそみちひとつのこして、 みな、はたけにつくりたまえ」といさめはんべりき。

 まことに、すこしのちをもいたずらにおかんことは、えきなきことなり。くうもの・やくしゅなどうえおくべし。