徒然草(下)

第185段 城陸奥守泰盛は、双なき馬乗りなりけり。


 城陸奥守泰盛は*、双なき馬乗りなりけり。馬を引き出させけるに、足を揃へて閾をゆらりと越ゆるを見ては*、「これは勇める馬なり」とて、鞍を置き換へさせけり。また、足を伸べて閾に蹴当てぬれば、「これは鈍くして、過ちあるべし」とて、乗らざりけり。

 道を知らざらん人、かばかり恐れなんや。

城陸奥守泰盛は:陸奥守秋田城介安達補守1231〜1285)。安達義景の息子で、北条貞時の外祖父だが、孫 である執権北條貞時に滅ぼされる。乗馬の名手。

足を揃へて閾をゆらりと越ゆるを見ては:足を揃えて敷居を越えるのを見て、これは興奮気味の馬だと判断して、鞍をはずして別の馬を選んだという。また、その逆は、鈍いので間違いを起こすとして、乗らなかったともいう。

道を知らざらん人、かばかり恐れなんや:乗馬道を知らない人なら、こういう風には恐れたりはしないのであろう。 肯定しているのか、否定しているのかよく分からない結言。


 名人というものはこういうもの。しかし、孫の行動が読めなかったのだから、この男案外ぼんくらではなかったのだろうか?


 じょうのむつのかみやすもりは、そうなきうまのりなりけり。うまをひきいださせけるに、あしをそろえてしきみをゆらりとこゆるをみては、「これはいさめるうまなり」とて、くらをおきかえさせけり。また、あしをのべてしきみにけあてぬれば、「これはにぶくして、あやまちあるべし」とて、のらざりけり。

 みちをしらざらんひと、かばかりおそれなんや。