徒然草(下)

第178段 或所の侍ども、内侍所の御神楽を見て、


 或所の侍ども、内侍所の御神楽を見て*、人に語るとて、「宝剣をばその人ぞ持ち給ひつる*」など言ふを聞きて、内なる女房の中に*、「別殿の行幸には、昼御座の御剣にてこそあれ*」と忍びやかに言ひたりし、心にくかりき。その人、古き典侍なりけるとかや*

或所の侍ども、内侍所の御神楽を見て:「内侍所」は八咫鏡を安置する。神楽は、ここの庭前で12月に行われる神鏡に奉納するためのもの。

宝剣をばその人ぞ持ち給ひつる:草薙の剣を そのお方は持っていたよ、と侍たちが言ったのである。その方とは天皇のこと。

内なる女房の中に:武士たちのそういう発言を聞いて、御簾の内なる女房の一人が、。

別殿の行幸には、昼御座の御剣にてこそあれ:別殿にお出ましになるときには、清涼殿におられるときに御坐にある御剣なのです」と小声で言った。

その人、古き典侍なりけるとかや:<そのひと、ふるきないしのすけなり・・>と読む。そう言ったのは、ベテランの典侍 (官邸女性秘書)だったという。


 どうでもよいことに、感心することがよくあるものだ?


 あるところのさぶらいども、ないしどころのみかぐらをみて、ひとにかたるとて、「ほうけんをばそのひとぞもちたまいつる」などいうをききて、うちなるにょうぼうの なかに、「べつでんのぎょうこうには、ひのござのぎょけんにてこそあれ」としのびやかにいいたりし、こころにくかりき。そのひと、ふるきないしのすけなりけるとかや。