徒然草(下)

第166段 人間の、営み合へるわざを見るに、


 人間の、営み合へるわざを見るに、春の日に雪仏を作りて*、そのために金銀・珠玉の飾りを営み、堂を建てんとするに似たり。その構へを待ちて、よく安置してんや*。人の命ありと見るほども、下より消ゆること雪の如くなるうちに*、営み待つこと甚だ多し*

春の日に雪仏を作りて:人間の営みをよくよく見れば、すぐにも融けてしまうのも知らないで 春の一日、雪の仏像を作っているようなものだ。

その構へを待ちて、よく安置してんや:雪像を安置するお堂の完成を待って、それを安置しようというのだが、そんなことが出来るのだろうか。

人の命ありと見るほども、下より消ゆること雪の如くなるうちに:はかない命のある間ですら、雪像 と同じで、下の方から融けて、死に近づいているいるというのにだ。

営み待つこと甚だ多し:そんな間にも、期待しながらあくせくと働き生きている


 「春の日に雪像」のたとえは良い譬だ。


 にんげんの、いとなみあえるわざをみるに、はるのひにゆきぼとけをつくりて、そのためにきんぎん・しゅぎょくのかざりをいとなみ、どうをたてんとするににたり。その かまえへをまちて、よくあんぢしてんや。ひとのいのちありとみるほども、したよりきゆることゆきのごとくなるうちに、いとなみまつことはなはだおおし。