徒然草(下)

第159段 みな結びと言ふは、糸を結び重ねたるが、


 「みな結びと言ふは、糸を結び重ねたるが、蜷といふ貝に似たれば言ふ*」と、或やんごとなき人仰せられき。「にな」といふは誤なり。

みな結びと言ふは、糸を結び重ねたるが、蜷といふ貝に似たれば言ふ:「みな結び」という組み紐の組み方は、蜷<みな>という貝に似ている所から名付けたものだ。「蜷<にな>」はカワニナなど川に棲息する巻貝のこと。これをニナと言うのは間違いで、「ミナ」と言わなくてはいけない、というのである。


 現代では、「蜷」はニナと読む。これをミナというのは古名である。よって、この段の話は現代では通用しないことになる。


「みなむすびというは、いとをむすびかさねたるが、みなというかいににたればいう」と、あるやんごとなきひとおおせせられき。「にな」といふはあやまりなり。