徒然草(下)

第146段 明雲座主、相者にあひ給ひて、


 明雲座主*、相者にあひ給ひて*、「己れ、もし兵杖の難やある*」と尋ね給ひければ、相人、「まことに、その相おはします」と申す。「如何なる相ぞ」と尋ね給ひければ、「傷害の恐れおはしますまじき御身にて、仮にも、かく思し寄りて、尋ね給ふ、これ、既に、その危みの兆なり*」と申しけり。

 果して、矢に当りて失せ給ひにけり。

明雲座主<めいうんざす>。55代および57代の天台座主。高僧の評価が残る。

相者にあひ給ひて:<そうじゃ>。人相見に会って。

己れ、もし兵杖の難やある:<おのれ、ひょうじょうのなんやある>と読む。私には、武器による遭難の相がありますか?

傷害の恐れおはしますまじき御身にて、仮にも、かく思し寄りて、尋ね給ふ、これ、既に、その危みの兆なり:もとより、高僧のあなたが傷害に遭うはずも無いのに、そういうことを尋ねられるということが、危険のある兆候ということに他なりません。


 人相など見てもらわなければよいと言うこと?


 めいうんざす、そうじゃにあいたまいて、「おのれ、もしひょうじょうのなんやある」とたずねたまいければ、そうにん、「まことに、そのそうおわします」ともうす。「いかなるそうぞ」とたずねたまいければ、「しょうがいのおそれおわしますまじきおんみにて、かりにも、かくおぼしよりて、たずねたまう、これ、すでに、そのあやぶみのきざしなり」ともうしけり。

 はたして、やにあたりてうせたまいにけり。