徒然草(上)

第100段 久我相国は、殿上にて水を召しけるに


 久我相国は*、殿上にて水を召しけるに*、主殿司*、土器を奉りければ*、「まがりを参らせよ*」とて、まがりしてぞ召しける。

久我相国:<くがのしょうこく>。太政大臣久我通光(1187〜1248)<くがみちみつ>。1284年、この職に就任し、死去。歌人でもある。

殿上にて水を召しけるに:清涼殿で水を飲むについて、 の意。

主殿司:<とのも づかさ>。女官で庶務担当として雑務一般を行う。

土器を奉りければ:<かわらけ>。素焼きの容器を差し出したらば、。

まがりを参らせよ:「まがり」は木製の器。自分に対して「まがりを差し上げろ」と言った。


 太政大臣が清涼殿で水を飲みたくなったから、木製の器で飲んだというだけの他愛のない話と、太政大臣が自分に対して敬語をつかって女官に命令する不適切の指摘か?


 くがのしょうこくは、てんじょうにてみずをめしけるに、とのもづかさ、かわらけをたてまつりければ、「まがりをまいらせよ」とて、まがりしてぞめしける。