徒然草(上)

第95段 箱のくりかたに緒を付くる事、


 「箱のくりかたに緒を付くる事、いづかたに付け侍るべきぞ*」と、ある有職の人に尋ね申し侍りしかば*、「軸に付け、表紙に付くる事、両説なれば、いづれも難なし*。文の箱は*、多くは右に付く。手箱には*、軸に付くるも常の事なり」と仰せられき。

箱のくりかたに緒を付くる事、いづかたに付け侍るべきぞ:文箱などの蓋につけた穴や 突起のことを「くりかた=刳り形」という。その穴に通す紐をどこに付けたらいいかを「有職」の人に尋ねたということ。

有職:<ゆうそく>。知識のある人であるが、ここでは特に、朝廷や公家の儀式・行事・官職などに関する知識(有職故実)。また、それに詳しい人(『大字林』) 。

軸に付け、表紙に付くる事、両説なれば、いづれも難なし:「軸」は箱の左側、「表紙」は右側を指している。二つの説があるのでどちらに通しても差し支えない

文の箱は:文箱のことで、書物を入れて送る容器。

手箱には:小物を入れる容器。


 文箱と手箱では紐のつけ方が違うらしい。


「はこのくりかたにおをつくること、いずかたにつけはんべるべきぞ」と、あるゆうそくのひとにたずえねもうしはべりしかば、「じくにつけ、ひょうしにつくること、りょうせつなれば、いずれもなんなし。ふみのはこは、おおくはみぎにつく。てばこには、じくにつくるもつねのことなり」とおおせられき。