徒然草(上)

第81段 屏風・障子などの、絵も文字もかたくななる筆様して書きたるが


 屏風・障子などの、絵も文字もかたくななる筆様して書きたるが*、見にくきよりも、宿の主のつたなく覚ゆるなり*

 大方、持てる調度にても、心劣りせらるゝ事はありぬべし*。さのみよき物を持つべしとにもあらず*。損ぜざらんためとて*、品なく、見にくきさまにしなし*、珍しからんとて、用なきことどもし添へ*、わづらはしく好みなせるをいふなり。古めかしきやうにて、いたくことことしからず*、つひえもなくて、物がらのよきがよきなり*

絵も文字もかたくななる筆様して書きたるが:屏風などに書いた絵や文字がやぼったい筆づかいで書いてあるのは、。

見にくきよりも、宿の主のつたなく覚ゆるなり:見にくいというより、この家の主人のセンスの悪さを感ずることだ。

大方、持てる調度にても、心劣りせらるゝ事はありぬべし:こういうことは、その家にある調度品などでも同じ事で、次に書いてあるような無様なものを見せられると、その家の主人に対してがっかりする事は必ずあるであろう。

さのみよき物を持つべしとにもあらず:それほど良いものばかり持てといっているのではないが。

損ぜざらんためとて:簡単には壊れないようにといって、。

品なく、見にくきさまにしなし:品のない無様なデザインを施して、。

珍しからんとて、用なきことどもし添へ:珍奇さを誇るばかりに、無用な飾などを施して、。

古めかしきやうにて、いたくことことしからず:古めかしようだが、ごてごてとせず、。

つひえもなくて、物がらのよきがよきなり:手に入れるのに余分な金を出費するのでもなく、センスのいいものがよいのだ。


 当代切っての審美眼の持ち主=吉田兼好の美学である。


 びょうぶ・しょうじなどの、えももじもかたくななるふでようしてかきたるが、みにくきよりも、やどのあるじのつたなくおぼゆるなり。

 おおかた、もてるちょうどにても、こころおとりりせらるることはありぬべし。さのみよきものをもつべしとにもあらず。そんぜざらんためとて、しななく、みにくきさまにしなし、めずらしからんとて、ようなきことどもしそ え、わづらはしくこのみなせるをいうなり。ふるめかしきようにて、いたくことことしからず、ついえもなくて、ものがらのよきがよきなり。