徒然草(上)

第24段 斎宮の、野宮におはしますありさまこそ、


 斎宮の、野宮におはしますありさまこそ*、やさしく、面白き事の限りとは覚えしか。「経」「仏」など忌みて、「なかご」「染紙」など言ふなるもをかし*

 すべて、神の社こそ、捨て難く、なまめかしきものなれや。もの古りたる森のけしきもたゞならぬに、玉垣しわたして、榊に木綿懸けたるなど、いみじからぬかは*。殊にをかしきは、伊勢・賀茂・春日・平野・住吉・三輪・貴布禰・吉田・大原野・松尾・梅宮*

斎宮、野宮におはしますありさまこそ斎宮<さいぐう>は、天皇の即位ごとに選ばれて伊勢神宮に奉仕した未婚の内親王または女王。崇神 <すじん>天皇の代に始まるとされ、後醍醐天皇の代まで続いた。いつきのみや。いつきのみこ(『大字林』より)。斎宮が、伊勢に下る前に斎戒する場所が野宮<ののみや>である。斎宮が野宮に居る様子というものほど優雅で、興味あるものはない、と言う。

「経」「仏」など忌みて、「なかご」「染紙」など言ふなるもをかし:伊勢信仰は仏教を忌避したのである。そこで、「仏」は「なかご」、「経文」は「染紙<そめがみ>」などと呼んだ。

玉垣しわたして、榊に木綿懸けたるなど、いみじからぬかは:神社では、社を垣根で囲み、榊の木には木綿( ゆう=コウゾの繊維で作った布で編んだ飾り)しめをかけた情景など、じつに優雅なものである。

伊勢(三重)、賀茂 の両社(別雷・御祖、京都)、春日(奈良)、平野(京都)、住吉(大阪)、三輪(奈良)、貴布禰(京都)、吉田(京都)、大原野(京都)、松尾(京都)、梅宮(京都)


前段23段に続いて、兼好の宗教観と皇室観が陳述されている。


 さいぐうの、ののみやにおわしますありさまこそ、やさしく、おもしろきことのかぎりとはおぼえしか。「きょう」「ほとけ」などいみて、「なかご」「そめがみ」などいうなるもをかし。

 すべて、かみのやしろこそ、すてがたく、なまめかしきものなれや。ものふりたるもりのけしきもたゞならぬに、たまがきしわたして、さかきにゆうかけたるなど、いみじからぬかは。ことに おかしきは、いせ・かも・かすが・ひらの・すみよし・みわ・きぶね・よしだ・おおはらの・まつのお・うめのみや。